安倍晋三首相が新型コロナウイルス対策に関する初の記者会見で、質問を希望して挙手する記者が残る中で終了した件が国会で取り上げられた。質問できた記者は5人で、野党からは「不誠実な対応だったのでは」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)と批判の声が出ている。
国会での質疑を受け、翌日付の主要新聞朝刊の一部は「会見打ち切り」を見出しに立てて報じる一方、打ち切りに言及した記事が見当たらない社もあった。中には、官邸側との調整に当たる「内閣記者会の幹事社」の仕組みを説明する記事も見受けられた。
質問求める挙手がある中での終了
2020年3月2日の参院予算委員会で、立憲民主党の蓮舫氏がこの「打ち切り」問題を批判的に取り上げた。安倍首相は「時間の関係で打ち切らせていただいた」と説明した。
該当の会見があったのは2月29日。官邸側は事前に「20分程度」行うと案内していたが、首相の冒頭発言で19~20分を費やした。その後、内閣記者会の幹事社2社の記者を含む5人から質問があった。司会役(長谷川栄一・内閣広報官)が、予定時間を過ぎたことに触れて会見を終えようとした際、フリージャーナリストの江川紹子さんが「まだ質問があります」と複数回食い下がったが、結局はそのまま打ち切られた。他にも質問を求めて手を挙げる記者もいた。会見時間は約36分だった。なお、この会見にはJ-CASTニュースも参加した。
3月2日の参院予算委質疑を受け、一般主要4紙の翌3日付朝刊(東京最終版)の中では朝日、毎日両紙が「会見打ち切り」を見出しに使って伝えた。
毎日新聞(総合3面)は横見出しを使った2段格の囲み記事で、「会見打ち切り 釈明に追われ」と見出しをつけた。会見当日の江川さんと司会役とのやりとりにも触れつつ、予算委の質疑を紹介。安倍首相が会見後も「打ち合わせを行った」ものの、会見終了の約20分後に官邸を出て東京都内の私邸に帰宅していたことに対し、蓮舫氏が「そんなに急いで帰りたかったのか」と皮肉ったことや、安倍首相が会見打ち切りは広報官の判断だったと強調した点に言及している。
幹事社質問については「官邸側に事前に通告」
朝日新聞(総合4面)は、2段見出し(会見打ち切り『時間の関係』 首相、問題ないとの認識)だった。会見当日の模様や今回の予算委審議の内容に加え、首相官邸の記者クラブである内閣記者会の幹事社の役割や、「幹事社質問」内容の官邸側への事前通告の有無にも触れており、
「内閣記者会の幹事社は、全国紙や在京キー局など常勤幹事社19社のうち、2~4社が2カ月交代で担当し、記者会内や首相官邸側との連絡、調整に当たる。(略)」
「幹事社質問については、案を記者会内で各社に周知し、加盟社から意見があれば修正し、官邸側に事前に通告している」
と説明。また、朝日新聞が「1~2月の幹事社」3社のうちの1社だったことも明かしている。朝日は社説でも「遅ればせながらの会見も、時間はわずか35分。その後に特段の公務が控えていたわけでもないのに、質問を打ち切って帰宅した」と批判的に言及している。
そして...産経、読売は?
産経新聞は参院予算委の「主なやりとり」を紹介した欄(総合5面)で、
「蓮舫氏『首相は(質問が残っているにもかかわらず)記者会見が終わってすぐに帰宅した』」
「首相『誰に質問させるかについては司会を務める広報官が責任を持って対応している』」
という部分を取り上げている。
読売新聞は、同様の「国会論戦の詳細 2日の参院予算委から」欄も含め、会見打ち切り関係のやりとりに触れた記事は見当たらなかった。
会見打ち切りについては、菅義偉官房長官が2日の記者会見で、「予定した時間が経過したから終わったと承知している」「(略)首相は新型コロナウイルスの対応全般について丁寧に説明し、質問を受けたと思う」と述べ、問題はないとの認識を示した。一方、自民党の二階俊博幹事長は2日の会見で、「必要であれば、もう1回やらせればいい。協力しますよ」と応じていた。