日本航空(JAL)は2020年2月28日、成田空港とロシア極東のウラジオストクを結ぶ便の運航を始めた。これまで同路線にはロシアのS7航空とオーロラ航空が就航していたが、日本の航空会社が定期便を飛ばすのは初めてだ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、記念式典は大幅に縮小。予定されていたロシア民族舞踊の披露が中止されたほか、式典では定番のテープカットやフォトセッション(写真撮影)も取りやめになり、自粛ムードでの初便出発となった。
初便搭乗率81.3%をどう見るか
すでに航空各社では地上係員や客室乗務員(CA)もマスク姿で接客しており、セレモニーを取材する報道陣もマスクの着用を求められた。来賓として招かれていた、空港に隣接する多古町の所一重町長は、前日の2月27日に明らかになった政府の休校要請に対応するために欠席。飾りつけは搭乗ゲートに看板とマトリョーシカ風の風船が飾られた程度で、式典の内容も関係者3人のあいさつのみだった。
ウラジオストクへの所要時間は片道2時間半ほどで、ロシア正教の礼拝堂やレンガ造りの老舗百貨店など、その街並みから「日本から最も近いヨーロッパ」の異名もある。ロシアのミハイル・ガルージン大使は、日ロ間で最も重要な合意は「2023年までにロシアと日本の相互訪問者を40万人台に倍増させる合意」だとして、「本日のJALの新しい便が目標達成に寄与することを期待している」などとあいさつ。初便の運航を担当した鈴木大介機長が、飛行時間(フライトタイム)が2時間10分を見込んでいることを紹介すると、式典を見ていた乗客からは「へぇ~」と、改めて近さに驚く声もあがった。
初便はJL423便(ボーイング737-800型機)で、乗客117人を載せて11時30分に出発。この便の乗客の定員は144人。新規路線の初便は「ほぼ満員」で出発することが多い中での81.3%という搭乗率だ。新型コロナウイルスにともなう自粛ムードが影を落とした可能性もある。
「学生さんの旅行や、『海外旅行はちょっと...』というような」
新型コロナウイルスをめぐっては、日本と中国、台湾、香港、韓国を結ぶ路線で減便や運休する事例が出るなど、航空業界でも影響が出ている。JALの藤田直志(ただし)副社長は、東アジア以外の路線への影響についても
「学生さんの旅行や、『海外旅行はちょっと...』というような、他の路線への影響が少しずつ出てきている。特に東南アジアが少し(影響が)増えている」
などと話し、卒業旅行をはじめとするレジャー需要への影響が大きいとの見方を示した。
ガルージン大使が話したように、コロナウイルスの影響がなければ、ウラジオストク線は成長が見込める路線で、JALと全日空(ANA)は日本の航空会社として「1番乗り」を争った節がある。
JALが予定前倒してANAより早く就航した理由
路線就航は、JAL、ANAの両社がそれぞれ19年7月29日に発表。両社とも、日本の航空会社としては初めての就航だとうたっていた。就航時期については、この時点ではJALが「2020年度夏季ダイヤより」ANAが「2019年ウインターダイヤ中」と説明していた。19年冬季ダイヤは20年3月28日までで、翌3月29日から20年ダイヤだ。そのため、この時点ではANAの方がJALよりも先に就航するとみられていた。
先に就航日を発表したのはANA。19年10月23日、20年3月16日に就航することを発表。それから1週間が経った19年10月30日、20年2月28日に就航を前倒すことを発表した。
藤田氏は、就航を前倒した経緯について、
「路線を開設するにあたっては、できるだけ早めにトライアルをしていく。3便で始めるが(編注:3月28日まで週3往復で、3月29日から1日1往復になる)、そうすると実際に売りながら課題も分かってくる」
と説明。ANAとの関係については、
「何が何でもスタートを最初にする必要はなくて、余裕があれば、時間があれば、そこから始めるということを考えた」
「いずれにしても、競合他社さんも入ってくるわけで、そういう意味では、さっきのいろんなマーケット(編注:日本人だけでなくロシア人乗客も増やす、など)を探りながら、努力をしていきたい」
などと述べるにとどめた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)