新型コロナウイルスの感染拡大で、政府の要請を受けてイベントの中止が相次ぎ、「会社が潰れかねない」などと関係者からネット上で悲痛な声が漏れている。
「保険がおりない」との声も多いようだが、現状はどうなっているのだろうか。
あるロックバンド「ライブの中止で保険はおりません」
「僕らの様なアーティストはこの規模のライブの中止で会社すら潰れかねない損失を受けます」。ロックバンド「ノン ストップ ラビット」(略称・ノンラビ)のリーダー田口達也さん(26)は2020年2月26日、自身のツイッターでこんな窮状を訴えた。
ノンラビでは、政府要請を受けて、3月1日に東京都内で予定していた全国ツアーの最終公演を中止にした。チケット代の払い戻しは後ほどお知らせすると公式サイトで明らかにしたが、ツイートによると、公演費用は1000万円を超えたという。
しかし、会場予約は1年以上先になるため振替公演を確保できず、「今回のコロナウイルスによるライブの中止で保険はおりません」とも明かした。そして、個人の意見だと断ったうえで、電車の利用が今も続き検査体制も整っていないなど、感染者が減りそうもない状況だとして、中止要請をした政府に「本気で対応してください」などと呼びかけている。
政府の要請が出た26日は、PerfumeやEXILEなども当日の公演を中止しており、エンタメ業界の損害額は数百億円にも達する見込みだとの報道も出ている。ノンラビのほかにも、イベント中止による苦境を明かす関係者のツイートなども相次いでいる。
ヴァイオリンで歌うユーチューバーのYUUさんは、イベントは「不要不急の集まり」ではなく、ないと生活できない人もいるとツイッターで訴えた。
「興行中止保険」適用、損保によって判断分かれる
また、チューバ奏者で京都女子大学非常勤講師の坂本光太さんは、演奏会を中止にしてもフリー奏者らにギャラを支払わない主催者が多いとツイッターで不満を訴えた。
これらのツイートは、大きな反響を集めており、イベント中止で苦しいのは、主催者ばかりではないことが浮き彫りになっている。
今回の要請で、政府などが損失補償に動くという報道は、2月27日夕現在ではまだ見られないようだ。民間の損失補償としては、「興行中止保険」が知られているが、新型コロナによるイベント中止には適用されるのだろうか。
ある大手損保は、J-CASTニュースの取材に対し、「感染症の発生に伴う損害をカバーしている保険なら、約款を拡大解釈して今回のイベント中止の補償をすることもありえます」と答えた。
一方、別の大手損保は、「感染症を対象に含んだ保険もありますが、新型コロナについては、元々の補償に明記されていませんので、支払いの対象にはならないです」とした。そもそも感染症対象の保険がないと明かす大手損保もあり、「天候不順や交通機関の乱れなどが支払いの対象で、感染症による中止は対象外です」と話した。
今回のことに対しては、保険会社によって対応が異なっていた。
政府が損失を補填すべきかには様々な意見
様々な芸術活動を支援している骨董通り法律事務所代表の福井健策弁護士は2月27日、事務所サイトのコラムで、「感染症とイベント中止の法的対処~払い戻し、解除、入場制限~」と題して今回の問題への見方を明らかにした。
コラムでは、案件ごとの事情で個別の判断は変わるとしたうえで、債務者の危険負担を定めた民法第536条1項の規定から、政府要請のような主催者にも責任を問いにくい状況では、主催者は、原則としてチケット代の払い戻しが必要となると説明した。
この場合は、主催者が多額の負債を抱えるなど危機的な状況になってしまう。さらに、出演者も、特にイベント中止の規定がなければ、民法の同じ規定から、主催者のギャラ支払い義務はなくなるだろうとの見方を示した。
つまり、主催者も出演者も、イベント中止で苦境に追い込まれる可能性が高いわけだ。
とはいえ、政府が損失を補填すべきかどうかについては、ネット上で論議になっている。
「要請するのなら一定の補償も必要」「政府の対応もっと改めてほしい」との意見もある一方、「なんでもかんでも国費というのはちょっと違う」「そこには自己責任が伴うのでは?」「経済的損失は、皆で負担し乗り切るしかない」との声も出ている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)