三越伊勢丹ホールディングス(HD)は2020年2月7日、旗艦店である日本橋三越本店(東京都中央区)に家電量販店大手のビックカメラを開業させた。日本橋三越本店は日本最古の百貨店で老舗中の老舗。一方、ビックカメラは低価格を売りにするチェーン店。「ミスマッチ」とも言えるこの二つの取り合わせから、百貨店の苦心が見えてくる。
開業した「ビックカメラ日本橋三越」は、同本店新館6階、広さは1200平方メートル。通常のビックカメラ店舗では取り扱っていない高級限定モデルの美容家電、88型と超大型の8Kテレビ、多機能を備えた高級冷蔵庫など、最新の高級家電などをそろえた。店内には大きなソファを設置し、客にくつろいでもらいながら、顧客のきめ細かい相談に応じる。店員はビックカメラではおなじみの赤い制服は着用せず、落ち着いたスーツ姿の「家電コンシェルジュ」が対応する。また同店の利用客向けに、月額料を設定し、家電にかかわるあらゆる困りごとなどに応じるサービス「スーパーサポートプレミアム(最高で月額税込み1万4800円)」を設けるなど、「百貨店」を意識した品ぞろえ、接客が特徴だ。
「相当な決断だった」
ビックカメラの狙いは顧客層を広げることだ。百貨店は、通常のビックカメラの店舗ではそれほど多くないとされる富裕層を多く抱えている。富裕層との接点を増やせば、高級家電を売り込む機会となり、大きな利益も見込める。
一方、三越伊勢丹HDにとって家電量販店の受け入れは初めてで、「相当な決断だった」(流通関係者)といわれる。伝統を持ち、高級感のイメージが強い日本橋三越本店は富裕層に好まれており、奇抜な対応は客離れにつながりかねないためだ。
家電量販店は高級感とは相容れない存在のようにみえるが、それでも三越伊勢丹HDが受け入れに踏み切ったのは、生き残りのためには従来の百貨店のあり方を見直さなければいけないと考えたためといえる。
不動産業態を強化する動き
インターネット通販の広がりなどで百貨店の経営は年々、厳しさを増している。日本百貨店協会が発表した2019年の全国百貨店売上高は前年比2.2%減の5兆7547億円で、6年連続で減少した。人手不足による人件費高騰も厳しい経営に追い打ちをかけている。
百貨店は元々、自らが商品を仕入れて売るという業態でやってきた。しかし価格はもちろん、品ぞろえの豊富さでも今や、ネット通販にかなわなくなっている。従来の業態では限界がある。そこで、主要駅に近かったり、一等地に店を構えたりしているなどの地の利を生かし、売り場をテナントに貸し出す不動産業態を強化する動きが目立ってきた。J.フロントリテイリングが運営し、東京・銀座(同中央区)の旧松坂屋跡に2017年にオープンした複合施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」がその代表だ。
日本橋三越本店のビックカメラ受け入れもこの動きの一つといえる。大胆な改革が不可欠ということだろう。三越伊勢丹HDは「品ぞろえを強化する一環」と説明し、あくまでもビックカメラと連携して客の満足度を上げ、売上増につなげたいとの姿勢を強調する。日本橋三越というブランド力を維持し、中心顧客である富裕層に受け入れられるか。三越伊勢丹HDの行く先を占う挑戦といえる。