金融庁が、少額の元手で多額の売買ができる暗号資産(仮想通貨)の証拠金取引の倍率(レバレッジ)上限を2倍までに固めた方針を巡り、暗号資産業界に波紋が広がっている。
金融庁認定の自主規制団体「JVCEA(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会)」が設定した現行の4倍から2倍にレバレッジ上限が下がれば、国内ユーザーが高レバレッジで高収益の獲得が可能な海外暗号資産取引所に流れ、国内取引所の収益減が危惧されているためだ。
署名活動もスタート
証拠金取引の月次取引高は、2019年11月で現物取引の約10倍に上る3兆円。国内取引所の収益源の柱となっており、レバレッジ上限の引き下げは取引所運営に大きな影響を及ぼすとされている。
そうした懸念が渦巻くなか、金融庁はすでにレバレッジ規制に対するパブリックコメント(意見公募)の募集を2020年2月13日に締め切った。5月を予定する改正資金決済法と改正金融商品取引法の施行で、レバレッジ2倍が適用されるのは確実だ。
レバレッジ2倍に関しては、2019年5月に両法が成立した段階で、度々議論の俎上に載せられてきたが、パブコメの締め切り直前になってヒートアップ。暗号資産メディアが連名で反対の意を唱えるまでに発展した。
パブコメの締め切りが翌日に迫る2月12日午後。国内暗号資産メディアであるコインテレグラフジャパン、CoinChoice、コイン東京、コインポストの4社が、金融庁にレバレッジ上限の見直しを求めるとともに、パブコメへの記入を呼びかける共同声明を出した。
声明は、レバレッジ上限引き下げによる取引所収益へのマイナス影響や、投資家資産の海外流出の懸念などを強調した内容。また、レバレッジ制限が暗号資産の流動性(取引所における出来高)の低下をもたらすと訴える法律家のインタビューなどを併せて掲載。声明文は計7000字を超える長文となり、反対への意思は真に迫っていた。
また、4社は署名サイト「change.org」上を通じ、共同声明への賛同を募る署名活動も展開。2月19日時点で、「過度な規制で日本の暗号資産・ブロックチェーンが世界から遅れる」「暗号資産への規制は大口の投資家の日本離れに拍車をかける」といったコメントとともに、1000筆を超える署名が集まった。
4社が主導した反対運動だけでなく、ツイッター上でも異論が噴出しており、厳しい声が相次ぐ。
なおも議論は続きそう
このように暗号資産メディアなどでは、金融庁のレバレッジの上限規制に対しては反対論が根強い。今回のレバレッジ上限を「2倍」とする根拠はもともと、米国先物取引所CMEや欧州連合が上限を2倍に規制しているからとされる。合理性に欠けるとして、批判が先行するのは、納得できる部分がある。
一般的には、高レバレッジ=取引リスクが高いと認識されがちだ。一方で、海外取引所のBitMEXは、レバレッジを100倍に設定しているが、証拠金以上の損失をゼロにし「追加証拠金=借金」を帳消しにするゼロカットシステムを導入し、リスクを低減させている。こうしたシステムを法制化すべきかはさらに踏み込んだ議論が必要だが、金融庁が暗号資産市場発展の成否を握る以上、業界の声と実情を踏まえた制度の再設計を求める声は、今後も続きそうだ。
(ライター 小村海)