「若者の時計離れ」その先にあるものは... シチズン株価下落の背景を読む

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   時計大手・シチズン時計の株価が、約5カ月ぶりの安値水準になっている。2020年3月期の業績と配当予想の下方修正が投資家に嫌気され、売り浴びせられた格好だ。

   10万円以下の中価格帯の腕時計が売れなくなっているという構造的かつ厳しい問題が背景にあり、経営陣は難しい舵取りを迫られていると言えそうだ。

  • シチズン公式サイト
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大幅な減配予想

   まず、20年2月12日に発表された、3月期下方修正の内容を確認しておこう。純利益は従来予想より75億円減額し、40億円。前年実績比で70.1%減と大幅減益を見込む。営業利益は従来予想比70億円減額し、90億円(前年実績比59.8%減)。売上高は従来予想比175億円減額し2875億円(同10.6%減)。

   これだけでも「何事か」というレベルの下方修正だが、投資家をさらに失望させたのが減配予想だった。従来は前期実績(年間20円)を4円上回る年間24円としていたが、一転して減配かつ従来予想より半減となる年間12円に下方修正したのだった。シチズン時計は業績予想を下方修正した理由について、「主に時計事業、工作機械事業の市況環境が悪化していることに加え、構造改革に伴う特別損失を計上するため」、配当予想の下方修正については、「連結業績との連動と安定配当とのバランスを勘案」と説明している。

   業績と配当予想の下方修正を受けて、発表翌日の2月13日、シチズン時計の株価は急落。一時前日終値比9.6%(52円)安の492円まで下げた。当日高値(512円)が前日安値(536円)を24円も下回り、大きな「窓をあける」節目のチャート図を描いた。終値(493円)も安値(492円)に近い価格にとどまり、今後の戻りの弱さを想像させた。実際、翌週の株価はさらに下値を追う展開となっている。

スマートフォンが脅威となっている

   シチズン時計の株価が下落している背景には、主力事業の腕時計を巡る時代の変化がある。おそらく50代以上の男性にとって腕時計は常に身につけているのが当たり前であって、思い入れのあるものを複数持っている人は多い。なかでも経済的に余裕のある人なら、シチュエーションに応じて同じ一日であっても腕時計を付け替えることも珍しいことではないだろう。

   ただ、これまで安価なデジタルカメラやカーナビなどを駆逐してきたスマートフォンが、腕時計業界にも脅威となっているのが現状だ。若年層にとって常に携帯しているスマホを見れば時刻は分かるため、わざわざ腕時計をはめる必要はない。また、腕時計を見ることは目の前にいる人に「退屈させているんだろうか」などと心をざわつかせないとも限らないが、スマホをチェックするついでに時刻を確認するのなら、相手にそこまでのマイナス感情を呼び起こすことはない。

   そうしたことから、若年層の腕時計離れが確実に進んでいる。

高級腕時計市場で苦戦

   シチズン時計のライバルであるセイコーホールディングス(HD)の中村吉伸社長が20年1月、日本経済新聞のインタビューに対し、「(腕時計型のデジタル端末)スマートウォッチは、若年層に『腕時計をつける』という習慣を与えた。1本目としてスマートウォッチを買った消費者は将来的にグランドセイコーをつけてくれるだろう」と期待を示したことが、若年層の腕時計離れをはからずも証明していると言えよう。

   こうした中で、セイコーHDが手がける富裕層向けの高付加価値な高級腕時計の世界販売が好調な一方、ブランド力でやや後塵を拝するシチズン時計が高級腕時計で苦戦しているのも事実。さらには、シチズン時計の腕時計の10万円以下の価格帯が売れなくなっていることも今回の業績予想の下方修正にもつながっている。

   野村証券が19年11月15日付で配信したシチズン時計についてのリポートは「『高品質の時計を安価に大量生産』というビジネスモデルが成りたたなくなっている状況下で、抜本的なビジネスモデルの見直しが必要ではないだろうか」と指摘した。そんなことは経営陣は百も承知だろう。株式市場はシチズン時計の「次の一手」を注視している。

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