「せめて墓標を」──遺骨収集にこだわる国に、シベリア抑留者遺族が訴えたいこと【71年目の死亡通知】(下)

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

整備されているドイツ人墓地

   慰霊巡拝に参加した遺族が指摘するのは、日本人の埋葬地とドイツ人の埋葬地の際立った対照だ。

   日本人埋葬地の多くは墓標もなく放置されている。墓標が建っていても、横倒しになっていたり、墓銘を刻んだ銅版が剥ぎ取られていたり、管理の手が入っているところはほとんどない。

   それに引き換え、ドイツ人墓地の多くは、戦没者一人ひとりの石造りの十字架が整然と並び、墓地はきれいに整備されている。

モスクワ・リュブリノ墓地にある、ドイツ兵らの墓標(Bloomaroundさん撮影、Wikimedia Commonsより)
モスクワ・リュブリノ墓地にある、ドイツ兵らの墓標(Bloomaroundさん撮影、Wikimedia Commonsより)

   旧ソ連はドイツとの戦争で2000万人とも3000万人ともいわれる犠牲者を出した。その許しがたい相手であるはずのドイツ人墓地がきちんと保全され、旧ソ連に不法に拉致された日本人の墓地が放って置かれているのは、いったいどうしたことか。ドイツ人墓地を見た遺族が疑問に思うのも、不思議ではない。

   日本人埋葬地とドイツ人墓地の違いは、つまりは国の姿勢の違いといってよい。

   管理は事実上ロシア側に「丸投げ」という日本に対し、ドイツでは戦争墓地維持国民同盟(VDK)と呼ばれる公益法人が、政府の委託を受けて海外の遺骨収集や墓地の整備・管理をおこなっている。年間予算は約50億円で、その3割を政府が支出、残りは10万人を超える会員の会費や寄付でまかなわれ、現在46カ国の800か所を超える墓地の管理にあたっているという。

   埋葬地の荒廃がこれ以上進むのは、遺族として耐え難いことだ。日ソ協定で埋葬地の管理 はロシア側の責任とされている以上、国の事業としてはやりたくないというなら、ドイツのように国に代わって民間の団体に墓標の建立・修復をはじめ、埋葬地の維持・管理を委託するということも、真剣に検討してみるべきだろう。

   ドイツといえば、空襲被害者との向き合い方も対照的だ。

   日本の場合、空襲被害者たちは1960年代以降、国家補償を求めて法廷闘争を続けてきたが、「戦争では国民みんながひどい目にあったのだから、被害を受けてもそれは耐え忍ばなければならない」という理屈(戦争被害受忍論)により、いまだに補償は実現していない。

   これに対して、ドイツの空襲被害者は「障害者手当」に「戦争犠牲への賠償」加算などで、平均賃金並みの収入があり、医療費は全額国費。さらに「2年に1回、1カ月間の療養旅行」でリフレッシュすることができるうえ、足を切断した障害者にはひざがすれるからと「服装手当」が支給され、顔のやけどは「精神的なダメージがある」として重い障害扱いだという(朝日新聞の連載「救われず71年」伊藤智章編集委員)。

姉妹サイト