「せめて墓標を」──遺骨収集にこだわる国に、シベリア抑留者遺族が訴えたいこと【71年目の死亡通知】(下)

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ほとんどが「無縁仏」に

   遺族としてここであえて強調したいのは、苦労して遺骨を収容しても、実際に遺族のもとにかえることができるのは、DNA鑑定で身元が特定されたほんの一握りの人にすぎないということだ。

   シベリア抑留犠牲者の場合、約5万5000人の死亡者のうち、これまでに約2万1900人分の遺骨が収容された。しかし、DNA鑑定がおこなわれるようになったのは2003年のことであり、それ以前に収容された遺骨は検体を採取することなく火葬に付されているため、もはや鑑定にかけることはできない。

   厚労省は現在12の大学などに鑑定を委託しているが、鑑定を担当している研究者によると、支給されるのは試薬代だけ、研究や教育という本業の合間にボランティア的に鑑定をしているのが現状という。そうした体制のお粗末さもあって、DNA鑑定がはじまってから昨年7月末までの17年間に、身元が判明して遺骨が遺族にかえされたのは、わずか1145人分だけだ。

   フィリピンなど南方の激戦地の場合は、どこで亡くなり、どこに葬られたかもわからないケースが大半なうえ、高温多湿で骨の劣化が激しく、これまでに身元が特定できたのは15人分にすぎない。

激戦地の一つとして知られるフィリピン・レイテ島。多くの日本兵が命を落とした
激戦地の一つとして知られるフィリピン・レイテ島。多くの日本兵が命を落とした

   つまり、今のままでは、シベリア抑留犠牲者をふくめ、収容された遺骨のほとんどは「無縁仏」として国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑に葬られることになるのだ。

   厚労省は遺骨の科学的な鑑定を強化するために「鑑定調整室」を設置、今年度予算では遺骨収集の事業費を昨年度より6憶円ほど増やし、約30億円を要求するとしている。

   しかし、遺骨収集の現場で遺骨が日本人のものかどうかを判定する人類学の専門家や、DNA鑑定の専門家の数は絶対的に少ない。その人材養成には息の長い取り組みが必要であり、小手先の対応では無縁仏をふやすだけのことになるだろう。

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