発覚した遺骨の取り違え
遺骨収集の出口が見えないことに加えて、昨年7月には遺骨収集事業そのものへの信頼を根底から揺るがすような事態が発覚した。
厚生労動省の検証によると、1999~2014年に9か所の埋葬地からシベリア抑留者のものとして持ち帰った遺骨のうち、計597体分が日本人のものでない可能性が高い、と複数の専門家が指摘していた。ところが、厚労省は報道されるまでその事実を公表せず、ロシア側にも伝えていなかった。
そのうえ、問題の遺骨のうち336体は、すでに無縁仏として国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑に納骨されていることもわかり、「自分の家のお墓に他人を入れてしまったようなもので、とんでもないことだ」と、遺族や抑留体験者の怒りを買うことになった。
この不祥事をめぐっては、「嬉しくない発見です」「DNA鑑定しなければ、かつてはそのまま千鳥ヶ淵に納骨していたわけですからね。厳密にやったおかげでこういう話が出てくる」というDNA鑑定会議における厚労省担当官の発言まで報道され(NHK「追跡!厚生労働省のタブー2」~隠されていた不都合な事実~)、遺骨収集事業への不信をいっそう増幅することになった。
粗雑な遺骨収集が表沙汰になったのは、これがはじめてではない。2010年にもNPOに委託したフィリピンでの遺骨収集で、NPOが現地の住民に対価を支払って集めた遺骨の中に、日本人以外の遺骨が多数ふくまれていることがわかり、事業を中断するという事件があった。
外部有識者による調査チームは昨年末、これらの問題についての報告書を公表、「組織としての問題意識が低く、感度が鈍い」と厳しく指摘したが、収容数を増やして「実績」をあげることを優先するあまり、遺族のもとに遺骨をかえすという、本来の目的がおろそかにされているのではないか、と懸念せざるをえない。