「せめて墓標を」──遺骨収集にこだわる国に、シベリア抑留者遺族が訴えたいこと【71年目の死亡通知】(下)

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28億円 対 1.5億円

   遺骨収集や墓地の保全に対する国の姿勢は、戦争責任をどう考えるか、ということと深くかかわっている。

   昨年8月に放送されたNHKのドキュメンタリー「戦没者は二度死ぬ~遺骨と戦争~」は、集団自決で奇跡的に生き残り、2人の妹や他の家族の遺骨を求めて、現場の北マリアナ諸島・テニアン島の洞窟に足を運び続ける福島県の伊藤久雄さん(84)の姿を通じ、国の姿勢を厳しく問いただした。

   画面の背景には、こんなナレーションが流れる。

「戦没者は二度死ぬという。一度目は戦争で死んだとき。二度目は遺骨が家族のもとに還れなかったとき」

   伊藤さんは3年前にもその洞窟の探索に加わり、ついに3人分の遺骨を掘り当てた。ところが、同行した厚労省の職員は「歯が見つからなければDNA鑑定はできない」と、現地で焼却してしまった。

   厚労省の当時の作業要領では「歯のある頭骸骨」だけをDNA鑑定の対象としており、職員はそれに従ったわけだが、現場の洞窟で集団自決したのは伊藤さんの家族や知人であり、焼却処分はいかにも杓子定規の措置だった。

   実際、遺骨の捜索とDNA鑑定を担当する米国防総省の専門機関(DPAA=捕虜・行方不明者調査局)のスタッフは「鑑定技術の進歩で当時でも、小さな骨片からでも身元を特定できる可能性は十分あった」という。

   それにしても、愕然とさせられるのは、遺骨収集・DNA鑑定体制のあまりの違いだ。アメリカのDPAAは100人を超える専門スタッフを抱え、戦場で見つけた遺骨は焼かずに持ち帰り、DNA鑑定をおこなう。

2019年、米DPAAがガダルカナル島で行った捜索の様子。ガダルカナル島は、第2次世界大戦中、日本軍と米軍などによる凄惨な戦いの場となった(米国防総省画像配信システム「DVIDS」より)
2019年、米DPAAがガダルカナル島で行った捜索の様子。ガダルカナル島は、第2次世界大戦中、日本軍と米軍などによる凄惨な戦いの場となった(米国防総省画像配信システム「DVIDS」より)

   それだけではない。アメリカは8万2千人の戦没行方不明者に対し、DNA鑑定関連の予算は約28億円。

   これに対して、日本はといえば、アメリカの戦没行方不明者の14倍近い約112万人もが未収容のままなのに、2018年度の遺骨収集関連予算の総額は23億8000万円。DNA鑑定のための年間予算も1億5千万円余りにすぎない。

収容され、『帰国』の途に就く遺体。これから、本国でDPAAによる身元鑑定が進められることになるという(DVIDSより)
収容され、『帰国』の途に就く遺体。これから、本国でDPAAによる身元鑑定が進められることになるという(DVIDSより)(DVIDSより)

   DPAAの長官はいう。「国が兵士たちを戦場に送り、二度と帰れなくさせてしまった。遺骨を祖国に帰し、遺族にこころの区切りをつけてもらう。それは国の責任なのです」

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