28億円 対 1.5億円
遺骨収集や墓地の保全に対する国の姿勢は、戦争責任をどう考えるか、ということと深くかかわっている。
昨年8月に放送されたNHKのドキュメンタリー「戦没者は二度死ぬ~遺骨と戦争~」は、集団自決で奇跡的に生き残り、2人の妹や他の家族の遺骨を求めて、現場の北マリアナ諸島・テニアン島の洞窟に足を運び続ける福島県の伊藤久雄さん(84)の姿を通じ、国の姿勢を厳しく問いただした。
画面の背景には、こんなナレーションが流れる。
「戦没者は二度死ぬという。一度目は戦争で死んだとき。二度目は遺骨が家族のもとに還れなかったとき」
伊藤さんは3年前にもその洞窟の探索に加わり、ついに3人分の遺骨を掘り当てた。ところが、同行した厚労省の職員は「歯が見つからなければDNA鑑定はできない」と、現地で焼却してしまった。
厚労省の当時の作業要領では「歯のある頭骸骨」だけをDNA鑑定の対象としており、職員はそれに従ったわけだが、現場の洞窟で集団自決したのは伊藤さんの家族や知人であり、焼却処分はいかにも杓子定規の措置だった。
実際、遺骨の捜索とDNA鑑定を担当する米国防総省の専門機関(DPAA=捕虜・行方不明者調査局)のスタッフは「鑑定技術の進歩で当時でも、小さな骨片からでも身元を特定できる可能性は十分あった」という。
それにしても、愕然とさせられるのは、遺骨収集・DNA鑑定体制のあまりの違いだ。アメリカのDPAAは100人を超える専門スタッフを抱え、戦場で見つけた遺骨は焼かずに持ち帰り、DNA鑑定をおこなう。
それだけではない。アメリカは8万2千人の戦没行方不明者に対し、DNA鑑定関連の予算は約28億円。
これに対して、日本はといえば、アメリカの戦没行方不明者の14倍近い約112万人もが未収容のままなのに、2018年度の遺骨収集関連予算の総額は23億8000万円。DNA鑑定のための年間予算も1億5千万円余りにすぎない。
DPAAの長官はいう。「国が兵士たちを戦場に送り、二度と帰れなくさせてしまった。遺骨を祖国に帰し、遺族にこころの区切りをつけてもらう。それは国の責任なのです」