管理はロシア側に「丸投げ」
遺族の証言からも、厚労省の調査からも、日本人の埋葬地の多くが、消滅の危機にあるのは確かである。
私はロシアから帰国すると、「せめて位置が特定できる埋葬地には、『国の責務』として、日本人が眠っていることを示す墓標の建立を急ぐべきではないか」との意見を新聞に投稿し、厚労省に同趣旨の申し入れをした。
この投稿については、新聞社の読者からの意見を受ける部署に「靖国神社に参拝している国会議員たちはこうした事実を知っているのか。この投稿を切り抜いて送りつけてやりたい」という電話があったそうだ。
しかし、厚労省からは「1991年に旧ソ連との間で結ばれた協定により、埋葬地の管理はロシア側の責任だ。当該埋葬地についてはウスリースク市に清掃を行うよう申し入れをした」という回答がかえってきただけだった。
確かに、日ソ間の抑留者に関する協定の第1条4項には「日本人死亡者の埋葬地が適切な状態に保たれるよう努めること」とあり、埋葬地の管理はロシア側の責任と定められている。
ところが、クズネツォフ教授が述べているように、肝心のロシア側には協定を守ろうという姿勢はほとんどみえず、父の埋葬地に限らず、日本人埋葬地の多くは荒れ放題のまま放置されているのが実情だ。
現状のままでは、ロシア側への管理の「丸投げ」は事実上、埋葬地の放棄にひとしい、と言わざるをえない。
日本人埋葬地の荒廃を食い止めようとするなら、日ソ協定の存在を言い立てるだけでなく、日本側としては少なくとも、
(1)墓標を建てるなどして、そこが抑留者の墓地であることを明示する、
(2)そのうえで、管理をもとめる埋葬地のリストをロシア側に提示し、
(3)さらに、埋葬地の状況を定期的にチェックし、管理に問題がある場合は、ロシア側に強く申し入れる、
といった対応が必要だろう。
しかし、国はロシア側に「適切な管理の協力」を要請するだけで、自ら埋葬地の保全につとめようという気はほとんどないようだ。