車いすだと丁度いいのに、「二足歩行」だと利用しづらい――。そんな設計を施した実験的なレストランの体験イベントが2020年2月12日、東京大学本郷キャンパスでメディア向けに開催された。
テーブルの高さは膝くらい。天井も約170センチしかなく、ちょっと背の高い人は立ったままだと屈まなければ入店もできない。しかし、車いすで利用すればまったくストレスがない。さまざまな設備が、実社会の健常者と障害者の立場を逆転させた形で作られている。
「ヘルメット、お貸ししましょうか」
イベントを企画したのは公益財団法人日本ケアフィット共育機構(本部・東京都千代田区)が運営する「誰もが誰かのために共に生きる委員会」。すべての設備と接客態度を車いすユーザー目線でつくった設定の、バリアフリーならぬ「バリアフルレストラン」を試験的に「開店」した。
体験会で実際に訪れると、まずエントランスの扉が、記者(身長188センチ)の胸の高さほど。車いすに乗った店長が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるが、扉が低いため顔もほとんど見えない。屈んで入店すると、天井の低さに驚く。直立しているとまともに歩けず、うっかりすると梁に頭が当たる。やってきた店員にかけられた言葉は「ヘルメット、お貸ししましょうか」。膝くらいまでしかないテーブルには、イスもない。低いテーブルで立ったまま食事しなければならず、腰が痛くなりそうだ。
机上には、1人2つのおしぼりが用意されていることに気付く。1つは車いすを漕いで汚れた手を拭く用、もう1つは食事用だ。さらに、車いすのタイヤを触った手をアルコール消毒するためのスプレーも置いている。車いすユーザーにとってはごく普通の光景というわけだ。
「仕掛け」は他にもある。床には車いすで移動しやすいよう、タイヤがかみやすいカーペットではなく、ツルツルとした素材を使用。トイレの男女のマークも、車いすに乗った人がデザインされている。壁には「二足歩行者のおもてなし」について書かれたポスターを掲示している。車いすに乗る店員は二足歩行者への対応に慣れておらず、「介助者の方はいらっしゃいますか?」と尋ねてくる。現実の健常者と障害者の立場が逆転した仮想世界として、「バリアフルレストラン」は作られている。