東急の「アオガエル」が秋田へ
一方、東京・渋谷駅のハチ公口には2006年から、東急電鉄で活躍した旧5000系電車「5001号」が鎮座している。この車両は1954年に登場し、当時としては斬新な緑色のカラーリングと丸みを帯びた車体デザイン、当時の最新技術だった「直角カルダン駆動方式」の採用といった話題に富み、「アオガエル」の通称が付けられて東急の歴代車両の中でも知名度が高かった。
1986年に長野県の上田交通(現:上田電鉄)に譲渡され、1993年に引退後東急が保存していたが、2006年に東急から渋谷区が引き取った上で、渋谷駅前にモニュメントとして設置されることになった。ところが、床下の台車や機器を切り離し、車体も短くカットしたために、車両の原型を損なうとして鉄道ファンから疑問も上がった。
以後、イベントスペースとしてたびたび室内を改装されながら渋谷駅前の名物のひとつに定着していたが、20年2月9日に渋谷区と秋田県大館市で締結された「青ガエルプロジェクト」が報じられ、忠犬「ハチ」の生まれ故郷の大館市に移設されることが決まった。渋谷駅前に置かれるのは20年5月までで、7月からは大館市内の交流施設「秋田犬の里」の芝生広場で展示が始まる。
ハチ公の故郷という縁があるにせよ、東急沿線の渋谷での保存ならまだしも、なぜ秋田へ?との疑問が車両の歴史を知るファンから上がり、また渋谷駅周辺で進行中の大規模再開発と関連付けて「再開発で車両を置く場所がなくなっため、地方に引き取られた」というネガティブな憶測すら出回っている。
鉄道車両を保存するか否かは、現状事業者の裁量次第という状況で、廃車時に解体を免れてもこのように少しでも周辺事情が変われば行方は不透明になる。恒久的な博物館を持っている大手数社以外では、名車両をちゃんと後世に残してほしい、という鉄道ファンの期待の実現は難しいようである。