新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎が中国で猛威を振るっている。その経済への影響は当然懸念されるが、なにしろ新型肺炎が今後どうなるかがわからないので、読みにくいのが実情だ。
新型肺炎は、昨年(2019年)12月初めに発症が確認されたが、当初は隠蔽されていた。ようやく中国政府が公表したのは今年1月20日からだ。それから感染者数などの統計数字が出されたが、現時点で真の数字は誰にもわからない。
経済成長率目標が出るとしても...
ただし、政府チャーター便で武漢から日本への帰国者等は、発症していない人も検査しており、武漢での感染者数を推測するには格好のサンプルだ。それによれば、764人中感染者12人、1.6%の感染率だ(2月12日現在)。テレビの視聴率推計と類似して考えると、武漢で、18万人プラスマイナス11万人が、現時点より少し前に感染していたと思われる。それに、中国政府公表の数字は、実態は低い数字ながらも、その増加ペースは参考になるので、それを加味すると、最終的な感染者数は20万人超になるだろうが、少なくともあと1、2ヶ月はそう簡単に増加ベースは鈍化しない可能性がある。となると、こうした新型肺炎の感染度合を前提にすると、中国経済への影響は3~6ヶ月だろうと考えている。
そこで、中国経済への影響をまず考えてみる。中国GDPのうち消費は4割だ。このうち、新型肺炎騒動で、影響を受けるのが食品、交通、教育文化娯楽など5割程度だ。
これは1割減になると、GDPは2%低下する。なお、SARSの直撃を受けた2003年4-6月期のGDP成長率は9.1%で、直前の1-3月期(11.1%)から2ポイントも落ち込んだが、それは1四半期だけだった。
今回の新型肺炎は、2003年のSARSより長引く可能性が高く、中国GDPへの影響は2003年より大きいだろう。
3月5日の開幕予定の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で公表される2020年の経済成長率目標がどうなるのか。というか、全人代のスケジュール自体も予定通りかどうか危ぶまれている。2月上旬は、全人代に先立って開かれる地方レベルの人民代表大会が開催される予定だったが、次々に延期されているのだ。その中、2020年の経済成長率目標がでるとしても、2019年の目標6~6.5%を3%台に大幅に引き下げても不思議ではない。
日本経済への打撃も
世界経済への影響は、2003年よりはるかに大きい。2003年では、世界経済への影響は0.1%にとどまった。その当時、名目GDPの中国シェアは4.3%(2003年)だったが、今や15.7%(2018年)となっており、影響力が4倍程度だ。IMF(国際通貨基金)では、2020年世界経済見通し3.3%としているが、少なくとも0.4%以上引き下げて、2019年2.9%より低い水準まで見直すかもしれない。
肝心の日本経済はどうか。来週17日には、2019年10-12月期GDP速報(1次速報)が公表される。これは、新型肺炎の影響はまったくないが、10月からの消費増税のために、年率で▲4%程度と見込まれている。2020年1-3月期GDP速報は、5月中旬に発表されるが、消費増税で落ち込んだ後に追い打ちで、新型肺炎の悪影響がでてくる。観光面等でも年率▲0.2%程度の落ち込みが加わり、さらにサプライチェーンの切断の影響が加わると、現段階では読みにくいが、日本経済はかなりの打撃になるだろう。
今国会の会期は6月17日までなので、当然補正予算の議論もでてくるだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「韓国、ウソの代償」(扶桑社)、「外交戦」(あさ出版)など。