米国の電気自動車(EV)メーカー大手・テスラと言えば、生産ラインの不備で量産化がなかなか進まないという相次ぐ内部告発に加え、創業者の一人であるイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の奇行が取り沙汰され、日本ではマイナスイメージの報道が従来は大勢を占めていた。
ところが、企業の価値を示す時価総額が2020年1月、ドイツのフォルクスワーゲンを上回り、自動車メーカーとしてはトヨタ自動車に次ぐ世界2位に躍り出た。生産台数では既存メーカーにとても及ばないが、そこまで株式市場の期待が高まる背景には何があるのか。
一時はトヨタの背中も見えるほどに
テスラの株価は1月22日、上場している米国ナスダック市場で一時、前日比8.6%上昇して594.50ドルとなり、上場来高値を更新した。この日の終値の569.56ドルで時価総額を算定すると約1026億ドル(約11.2兆円)に達し、フォルクスワーゲン(約10.8兆円)を超えた。
とはいえ、トップのトヨタ(約25.5兆円)には遠く及ばない――と思いきや、その後も株価は伸び続け、4日には968.99ドルに到達。さすがにこれをピークに下げたが、12日時点でも700ドルを維持している。
年間販売台数が36万台程度の新興メーカーが1000万台を超える巨大メーカーと時価総額で肩を並べる一見奇妙な状態となった。
「シリコンバレーの異端児」とも呼ばれるマスク氏は、物議を醸す言動をかつて繰り返してきた。2018年にはテスラの株式を非公開化する意向を突然ツイッターに投稿して、後に撤回するなど枚挙にいとまが無い。
マスク氏は米国の宇宙ベンチャー「スペースX」のCEOも務めており、あふれ出るバイタリティーは衆目が一致するところ。株式非公開騒動の後には、さすがに米国の証券当局からお灸を据えられ、ツイッターで経営上の重要情報を投稿することを控えるようになっている。
鬼門の「量産化」クリアが後押し
だが、こうして懸念材料だったマスク氏の「個性」が抑制されると、テスラこそ自動車業界が迎えているCASE<Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字>の開発競争で最先端を走っている実態が浮かび上がる。
初期にはスポーツカータイプの「ロードスター」がマニアの支持を得たが、その後はセダンタイプの「モデルS」、クロスオーバーSUVタイプの「モデルX」を発売し、徐々にEV専業メーカーとしての地位を築いた。住宅用太陽光発電を組み合わせたEV電力システムや、「オートパイロット」と呼ぶ先進運転支援システムも、先鋭的なテクノロジーだ。オートパイロットは自動運転を一部可能にして、しかもソフトウエアがアップデートされて、機能が追加される仕組みだ。
今回の株価急伸の直接の引き金となったのは、2019年7~9月期の純損益が1億4300万ドルの黒字になったとの同年10月の発表だ。市場は赤字を予想していただけにサプライズとなった。
併せてテスラは、中国・上海で建設していたEV工場で試作車の生産を始めたことも発表した。鬼門だった量産化も上海では順調に進んでいる模様だ。中国の自動車販売台数は米国を超えて世界最大となり、政府はEV普及を推進する政策を進めている。テスラが上海で生産する主力小型車「モデル3」が中国市場を席巻する期待を株式市場が織り込んだといえる。さすがに今回の高騰には警戒する向きも強いが、このまま「本物」に化けられるか――市場の関心は高まっている。