「一生懸命やったんだけどなあ」視察を取りやめ、休日を返上して猛勉強し、「政府参考人」という「助っ人」まで準備して挑んだ、2020年2月10日の衆院予算委員会。その終了後、記者団に漏らした言葉は、政治家らしからぬ、なんとも率直なものだった。
公文書管理を担当する北村誠吾内閣府特命担当相が、安倍首相主催の「桜を見る会」をめぐる問題で、野党側のつぎのターゲットとなっている。
与党側が「助っ人」を仕込むほどの「迷答弁」
遡ること、2月6日、7日の衆院予算委員会。野党側が「桜を見る会」をめぐり公文書の保存期間について質問したのだが、北村氏は明確に答えられなかった。答えても、答弁は二転三転。さらに、質問されても意図を理解できないのか、自席で立ち往生する姿も目立った。内閣府職員が必死に答弁のサポートに回ったのだが、その効果は見られなかった。
こうした「迷答弁」ぶりに、野党側は審議を継続できないとして退席し、7日の委員会は打ち切られ、翌週10日に持ち越しとなった。では、10日の委員会はどうだったのだろうか―。
まず、与党側は内閣府の総括審議官を「政府参考人」として出席させることを、主要野党の反対を押し切り、多数決で決めた。その内閣府審議官が委員会の冒頭で、北村氏の答弁が迷走したことについて、自身が誤った資料を手渡していたためだと釈明。「事務方として大変申し訳ない」と陳謝すると、北村氏も続いて「おわびして訂正する」と後追いした。
また、内閣府が国会提出した推薦者名簿の一部が白塗りにされていた問題で、野党側が公文書管理に関する政府のガイドラインに違反するかをただすと、内閣府審議官は「違反に当たらない」と断言したが、北村氏は「ただいま大急ぎで(答弁を)整理している」と述べるなど、北村氏と「助っ人」の答弁が一致しない、ちぐはぐな状況が続いた。主要野党はこれに反発して審議を一時ボイコット。その前後も議事はたびたび中断した。
身内からも「答弁能力なし」...これで適材適所?
野党側は「閣僚としての適性がない、一刻も早く罷免すべきだ」と訴えるなど、北村氏の資質に照準を合わせ、安倍首相の任命責任も追及する構えだ。これに対し、身内である与党内からも「答弁能力がない」「こうなることは最初からわかっていた」という声が漏れているのだ。
北村氏は、現在73歳。長崎県の出身で、地元の市議や県議を務めたのち、2000年に初当選。以来、連続7回の当選を果たすが、目立った役職などへの起用はなかった。2019年9月の内閣改造で、岸田派の後押しのもと、ようやく初入閣となった。安倍首相による「派閥への配慮」「在庫一掃人事」の象徴で、当時から答弁は不安視されていたという。今回それが現実となった形だ。
「桜を見る会」の国会追及が終わらない理由。それは、数々の疑惑が解明されていないからだ。その1つ、公文書管理の問題においては、「桜を見る会」の招待者名簿をめぐり、公文書管理法と内閣府の文書管理規則に違反していたことが明らかになり、政府が繰り返してきた「ルールに基づいて適切に保存・廃棄している」との説明が根底から覆った。ずさんな公文書管理は、国民による政治のチェックを困難なものとし、民主主義の土台を崩す恐れがある。
北村氏にどこまでその自覚があるかは不明だが、国会答弁さえままならない状況では「適材適所」とは言い難い。ずさんな公文書管理の実態解明はまだまだ遠いようだ。