岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 一般教書を引き裂いたペロシへの「視線」

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事前に原稿に切れ目を入れていた映像

   トランプ氏がこれまでに何度もフェイクニュースと批判してきたCNNでは、「事前に計画していたわけではなく、あの瞬間に衝動的に怒りをぶつけたんでしょう。でも(トランプ氏の)演説は偽りだらけですから、その理由は十分にあります」とニュースキャスターが伝えた。

   しかし、その後、NBCはスローモーションで、一般教書演説中、原稿を破る前のペロシ氏の様子を公開した。トランプ氏が、ゲストのリンボー氏を紹介し始めた時だった。

   リンボー氏が末期の肺癌と診断され、「家族とともに苦しみのなかにある」と話すトランプ氏の後ろで、ペロシ氏が、目の前の原稿を何枚か手に取って机の下に隠した。

   そして、目をそらし、原稿の真ん中辺りに手で切れ目を入れると、また元に戻したのだ。あとで失敗せずに破くための準備をしていたようだ。

   トランプ支持者からは、「NBCもたまには真実を報道するのね」「ペロシ氏はトランプの再選を助けているようなものだ」と皮肉の声が寄せられた。

   一方、民主党支持者のなかには、ペロシ氏の今回の行為をトランプ氏への強い挑戦の意志と捉え、「よくぞやってくれた」と称賛する、あるいは少なくとも共感する人が多い。が、中には、彼女が同党の象徴的な存在であるだけに、複雑な思いを抱く人もいる。

   ノースキャロライナ州グリーンズボロに住むジョナサン(50代)は、「僕はトランプが好きではないけれど、今回のペロシ氏の原稿破りはトランプと同じように、品性に欠く行為だ」とし、批判的だ。

   トランプ氏は、一般教書演説をうまく利用し、少なくとも共和党支持者らの心をつかんだという手応えを感じているようだ。弾劾裁判の無罪も確定し、株価は最高値を更新。支持率は過去最高の49%だ。

   ペロシ氏のスーツの白は、FOXニュースの司会者が言うように、降伏を意味することになるのか。結果が出るのは、8カ月後に迫っている。 (随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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