仮想通貨の代表通貨であるビットコイン。2009年の誕生から10年以上が経つ今でも投機的側面が目立つが、新型コロナウイルスの感染拡大によって株式市場の動揺が続く中、安全資産か否かの議論が再燃している。
海外メディアや投資家からは安全資産と推す声が相次ぐ一方、世界的にも安定した円が法定通貨である日本人から見ると、ビットコインが金や国債に代わる安全資産になるとは想像しづらい。実態はどうなのだろうか――。
株安と対照的に、ビットコインは上昇
2020年1月29日9時、ビットコインの価格は10月29日以来となる100万円を突破し、101万7476円に到達した。1月初頭からの価格伸び幅は、25%以上となった。
好調な価格伸長を記録したビットコインとは対照的に、世界各国の株式市場はその頃、中国・武漢を感染源とした新型コロナウイルスの感染拡大が経済に及ぼす懸念から、株安が顕著に現れた。29日のダウ工業株30種平均の高値は、前週比1.2%安となる2万8944ドル24セントに下落。同日の日経平均株価は、前週比2.7%安の2万3379円40銭となったほか、春節を挟んで2月3日に再開された上海総合指数は、連休前の終値比で7.7%安となる2746.61ポイントで取引を終えた。
こうした値動きを受け、投資家たちは、ビットコインの安全資産としての価値の高さを指摘。米調査会社ファンドストラットのトム・リー氏は、「ビットコインは金(ゴールド)などより良い、安全な避難場所とみなされている」とツイート。香港を拠点とする仮想通貨投資会社ケネティック・キャピタルのジェハン・チュー氏は「イランの混乱や米国の政治闘争、そして市場を不安定化させるコロナウイルスなどの影響によって、投資家は資本の避難シェルターを探している」と語っている。
そもそも安全資産とは...
有識者がこぞって強調するビットコインの安全資産の側面。株式市場と逆相関があるかような価格上昇が見られたためだが、ビットコインは投資の避難場所として安全だと結論付けるのは早計だ。
そもそも、安全資産とは、景気の動向に左右されにくく、元本を目減りさせない資産を意味する。硬貨や紙幣といった現金は勿論、満期が来れば利子が付く定期預金・普通預金、国債が該当する。元本割れのリスクがあるが、金も安全資産となる。
その定義に当てはめると、対ドルとのボラティリティ(資産の変動率)が近年、金の平均値約1.2%を上回る、1.42%から6.71%で推移するビットコインが、安全資産だと断言するのは難しい。仮想通貨ユーザーなら知っての通り、ビットコインは元本割れする可能性が極めて高い。
では、安全資産になったと確実視できるのは、どのようなケースになるのだろうか。金融危機や紛争などで株式市場が混乱し、投資家のリスク回避傾向が高まる(リスクオフ)時に、殺到するビットコインの買い注文が、リスクオフが起きたという文脈で起きたことが明らかになった時だろう。
他国と比べて群を抜いて安定している円を持ち、ユーザーのビットコインの購入目的がもっぱら攻めの投機に偏る日本では、その文脈を認識するのは難しいが、新興国に端緒が見える。
「半減期」は影響するか
例えば、政情不安を背景にハイパーインフレに悩まされるベネズエラ。同国では昨年末、法定通貨ボリバル建てのビットコイン取引量が2480億ボリバル(約6億円)となり、過去最高を塗り替えた。似たような傾向が他の新興国にも現れ、2019年12月にP2P(ピアツーピア)型の仮想通貨取引所ローカルビットコイン上で、南米アルゼンチンのビットコイン出来高が2週連続で過去最大規模の取引量を記録。同国政府による米ドルの購入制限を受けた反動とされ、不安定な自国経済の影響がビットコインの需要増へとつながっている。
だが、新興国で経済変動とビットコインの価格上昇に関連があったからと言って、ビットコインが安全資産であるとするはやはり、まだ早い。新興国、先進国問わず、あらゆる状況下でも、一貫した価値発揮が不可欠だろう。それでも、5月に半減期(採掘報酬が半減する時期)が訪れる2020年のビットコインは、インフレ率が現在の年率3.7~3.8%から同1.8%に減少するものの、供給量が減り、価値保存手段としての機能が高まるという有識者の主張がある。すなわち、採掘量減少に伴う希少価値の向上で、より金のような存在(安全資産)に近づく可能性があるのだ。
半減期まで残すところ約3カ月。ビットコインの価格がチャート上で、安定した動きを見せるか目が離せなそうだ。
(ライター 小村海)