2020年2月5日現在、中国・北京の新型コロナウイルスによる肺炎の感染者は253名で、比率で言えば、全中国(24,424名)の1%強だが、今後、春節期間に帰省していた人がどんどん北京に帰り、感染者数が急増しないか、心配が広がっている。
旧正月の1日である1月25日から北京でも新型コロナ肺炎を警戒して市民が外出を控えるようになっている。それから10日以上が過ぎた今も、市内のほとんどのレストランは開かれておらず、わずかに営業している店もデリバリーが主であり、しかも、客の自宅に届くのではなく、団地の門から10メートルぐらい離れたところに食事などを置いて、互いにまったく接触なく届けている。スーパーの客もまばらで、レジでは客がかなりの間をあけて支払いをしている。
そして、新型肺炎と同じぐらい心配されるのが、中国の経済だ。
数百万の帰省者が戻りつつある
2月1日から北京のすべての団地に出入りする人のチェックが厳しくなった。
団地に入ろうとする人は管理者から「武漢(湖北)に滞在しなかったか」を聞かれ、体温も測られる。それから名前、電話、住所を細かく記録してから初めて団地に入れる。
日本と違って中国の団地の場合、たいてい塀で囲まれ、そこに四つ以上の門がある。巨大で古い団地となると、塀の破れた部分もいつの間にか出入り口になるが、2月1日以降は、長年やぶれていた塀もきちんと修理され、ほぼすべての団地は出入り口を一つにした。
毎日出入りして、管理者と顔なじみになっても体温を測ってから団地に入る。
2月5日からは、政府機関、大企業に勤務する人は、職場の総務に個人の健康具合や同居する家族、親戚の状況も毎日報告するように義務付けられている。
春節期間に多くの人が故郷に帰っていたため、長江より南の各省や長江沿岸の各省と比べて、北京では新型肺炎にかかる人は少なかった。
しかし、これからは分からない。2月4日は立春で8日は正月15日にあたる。帰省していた人も遅くとも正月15日は故郷から出て勤務先に帰る。北京市政府は2月10日(月曜日)から春節後の仕事初めとするが、その前後に数百万人は北京に戻る。新型コロナ肺炎をほんとうに北京で防げるか。むしろこれから北京の防疫体制の真価が問われる。
レストランも映画館も売上ほぼゼロ
2月5日に北京ではまた雪が降った。たまに団地の外で野菜を売っていたおばさんも4日までにいなくなり、四六時中渋滞の道路も春節に入ってから車の影はほとんど消えている。ネット地図で北京の渋滞状況を調べると、赤どころか黄色の場所もひとつさえない。
中心街の中関村のいくつかのレストランの前を歩いてみたが、窓の中は明かりがともっていないか、ついていても客はほとんどいない。ネット上では、レストランの店長らが春節の宴会のために準備した野菜が使えなくなり廃棄したとか、買いためた肉もこれからどうするか、たいへん困っているといった「嘆き」が目立つ。
レストランチェーンのデータを調べてみると、市民がよく通う「旺順閣」レストランは、北京市内に60店舗展開しているが、春節期間中の客数は昨年とくらべ98.49%減で、売上も93.77%減となった。ほぼゼロに近い。市民に人気のある「眉州東坡」レストランもほぼ同様だった。
また、店をひらいたとしても、店員や客の体温の測定、食器やテーブルの消毒など、いつもより余計な手続きや出費が増えている。しかし、営業しなくても家賃などを払わなければならない。
春節期間を封切のターゲットにしていた映画は、今年、全部中止となった。ネット上、無料で見られる映画もわずかにあるが、映画館自体はほとんど閉鎖のまま。春節期間は年間でもっとも稼げる時期だが、2020年はそれは売上ゼロだった。
2月10日から工場なども稼働し始まる。部品の提供は保障されるか、さらに生産した製品はほんとうに売れるか、筆者の知っている経営者たちは「分からない」という。まず従業員用のマスクを手に入れられるか、食堂ではどんな形で食事を取るか、という方策を考えるのに手いっぱいだ。
「2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の時より今のほうがずっと厳しく感じる」と北京の経営者たちは口をそろえる。
北京の市民生活は立春後も、厳冬のままである。
(在北京ジャーナリスト 陳言)