新型コロナウイルスによる肺炎の感染をめぐる問題に、とりわけ神経をとがらせているのが北朝鮮だ。北朝鮮は韓国、中国、ロシアと地続きだが、韓国との窓口にあたる開城(ケソン)の連絡事務所の一時閉鎖に加えて、中国・ロシアとは航空便と鉄道の運行を停止した。
北朝鮮政府は「国家非常防疫態勢」で感染予防を「他のすべての事業に優先」すべきだとしている。医療体制が脆弱で、いったん感染が広がると被害は甚大だとみられる。その分、国外からの人の流入を遮断する水際対策に力を入れているようだ。
「国家非常防疫態勢」に切り替えた
北朝鮮の国営メディアは、2020年1月25日頃から連日のように新型コロナウイルスへの注意を呼びかける記事を配信しており、普段の「衛生防疫態勢」を感染の危険がなくなるまで「国家非常防疫態勢」に切り替えたと繰り返し言及している。
特に2月1日の労働新聞に掲載された社説では、行政機関や軍に対して「コロナウイルス感染症を防ぐための事業を他のすべての事業に優先させ、ここに総力を傾けるべきである」と呼びかけ、感染防止に最良の方法は「その経路を完全に遮断すること」だと指摘。国境地帯への出張や休暇を極力制限し、「他の国の人々との接触を完全に遮断」した上で、「国家非常防疫態勢」が解除されるまでは
「国際列車、国際航路運営や観光サービスを根絶し、入国者に対する隔離と医学的監視対策を厳格にすべきである」
とした。
「国際列車、国際航路運営や観光サービスを根絶」は、着実に実行されている。1月22日に外国人旅行者の受け入れが停止されたのに続いて、在平壌のインドネシア大使館は1月29日、北朝鮮に入国するすべての外国人はホテルに隔離されて30日にわたる検疫が必要になったと北朝鮮外務省から通告を受けたとする文書をウェブサイトに掲載した。
1月30日には、北朝鮮と中国を結ぶ全航空便と列車の運行(運航)が差し止めになったことを平壌に駐在する英国のコリン・クルックス大使がツイッターで明らかにした。在平壌ロシア大使館の2月1日付フェイスブックによると、1月31日付で北朝鮮外務省から感染防止策について通知があり、その中には「平壌ーウラジオストク便の無期限の運航停止」が含まれている。さらに、ロシア鉄道は2月3日、2月1日付の北朝鮮鉄道省の求めに応じる形で、2月3日から北朝鮮との国際列車の運行を一時的に取りやめたことを発表した。
これで、北朝鮮と他国をつなぐ空路と鉄路はすべて閉ざされたことになる。
「2月中は外交行事や会談は行わない」
在平壌ロシア大使館が明らかにした北朝鮮側の対応策は、他には大きく(1)中国やロシアから到着した外交団は15日間居住地で隔離する(2)1月13日以降に到着した外交団は病院職員が健康診断を行う(3)病院スタッフは定期的に外交使節団を訪問して検査を行う。感染の疑いがある人は隔離する(4)隔離された人は公共の場所を訪問したり他の人と接触したりすることを禁止する(5)2月中は外交行事や会談は行わない。急を要する場合は電話会談する、といったもの。
平壌駐在の大使館との外交を事実上停止してでも、外国人との接触を避けてコロナウイルスの感染を阻止しようという強い意志が反映された形だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)