ボクシングのWBA、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(26)=大橋=とWBO世界バンタム級王者ジョンリエル・カシメロ(30)=フィリピン=の王座統一戦が2020年1月31日、正式決定した。
4月25日(日本時間26日)に米ラスベガスのマンダレイ・ベイ・イベントセンターで開催され、井上は日本人ボクサー初となる主要3団体統一王者を目指す。
11年にフライ級でキャリア初のTKO負け
今年最大の目標である主要4団体統一へ向けて大きなステップとなるカシメロ戦。WBOのベルトを獲得すれば、WBA、IBFに続く3本目の世界ベルトとなる。昨年11月に世界5階級制覇のノニト・ドネア(フィリピン)を判定で下した井上は、カシメロを「ドネアより怖い」と警戒するが、カシメロのストロングポイント、弱点はどこにあるのか。過去の試合を振り返ってみたい。
カシメロは2007年6月にプロデューし、ライトフライ級、フライ級でリングに上がってきた。08年10月にWBOライトフライ級の地域タイトルを獲得し、翌09年12月に世界王座に初挑戦する。WBO世界ライトフライ級暫定王座決定戦に出場し、セサール・カンチラ(コロンビア)をTKOで下し王座獲得。10年7月の初防衛戦でラモン・ガルシア(メキシコ)に判定で敗れ王座を失っている。
2011年に階級を1つ上げてIBF世界フライ級王者モルティ・ムザラネ(南アフリカ)に挑戦し、キャリア初のTKO負けを喫している。この試合、カシメロは序盤から劣勢に立たされ5回に王者の右一発で撃沈。王者の地元、南アフリカでのアウエーということもあり、コンディション調整に苦しんだと見られるが、この試合を見る限りカシメロに打たれ強いという印象はない。
体重超過の「前科」も
2012年に再びライトフライ級に階級を下げてIBF世界ライトフライ級王座を獲得した。カシメロはこの王座を3度防衛したが、14年5月に行われた4度目の防衛戦で体重超過により王座をはく奪された。前日計量で約2.4キロオーバーしたカシメロは挑戦者マウリシオ・フェンテス(コロンビア)に1回KO勝利。失格したカシメロが勝利したことで王座は空位のままとなったが、なんとも後味の悪い結末となった。
体重超過の失態を犯したカシメロは階級を1つ上げてIBF世界フライ級王座を獲得。2017年9月にはスーパーフライ級に上げるも、IBF挑戦者決定戦に敗れ王座挑戦はならなかった。以降、階級をもうひとつ上げてバンタム級を主戦場とし、2019年4月にWBO世界バンタム級暫定王座を獲得。11月に正規王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)との王座統一戦で3回TKO勝利を収め王座統一に成功した。
井上が警戒するのは、カシメロの独特のボクシングスタイルだろう。比較対象となるドネアは豊富なアマチュアキャリアを誇る正統派で、基本に充実ないわゆる「きれいなボクシング」をする。試合中のクリンチはほとんどなく、パンチと同時に頭が飛び込んでくるようなラフさは一切ない。
予測不能の大振りフックが正統派を苦しめる
一方のカシメロといえば、左右に破壊力を秘めるものの大振りが目立つ。ただ、この大振りのフックが通常の軌道とは異なり、予測していない角度からパンチが飛んでくるため正統派ボクサーが苦しむ場面もみられる。テテとの一戦はこの典型ともいえるパターンで、カシメロのラフな大振りフックの目測を誤ったテテがモロにパンチを食らい、キャンバスに沈んだ。
カシメロはバンタム級に上げてからより破壊力を増し、現在5連続KO中である。過去の体重超過は、ライトフライ級(48.9キロリミット)時代のもので、3階級上のバンタム級(53.5キロリミット)での失態はないと思われるが、日本のボクシングファンにとってルイス・ネリ(メキシコ)の悪例があるだけに不安要素でもある。いずれにしてもリングの上で世界の「モンスター」に死角は見当たらない。