2020年5月より運行開始予定のJR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS銀河」の車両が報道公開され、実車の全貌が公開された。
そのデザイン、内装はおおむね鉄道ファンから好評で、運行計画にまで熱い視線が集まっている。なぜならかつて全国で走りファンの憧れだったが、今や絶滅寸前の「夜行列車での旅」をリーズナブルに体験できる可能性を持っているからだ。
随所に「ブルートレイン」思わせる仕掛け
WEST EXPRESS銀河は、普通・快速列車用の117系電車を改造し6両編成1本が完成、観光に特化した多彩な車内設備と、西日本の海や空をイメージした深い青色の「瑠璃紺(るりこん)色」で塗装された外観になった。
まず鉄道ファンが注目したのは、今は亡き「ブルートレイン」を思い起こさせるデザインと車内だ。ブルーの客車で統一された寝台夜行列車、通称ブルートレインは1958年に寝台特急「あさかぜ」で初めて採用されて以来全国で走っていたが、2016年に急行「はまなす」の廃止で全て姿を消した。しかし全国を走り鉄道雑誌や子ども向け鉄道図鑑では常に人気であり、鉄道ファンの憧れでもあった。
WEST EXPRESS銀河はカラーリングはもとより、夜行運行時には寝台にもなる普通車指定席「クシェット」や、ブルートレインの「A寝台」のように座席を転換できるグリーン車指定席「ファーストシート」、1人用グリーン個室「プレミアルーム」、普通指定席、フリースペースなどを備えている。これらはブルートレインの「A寝台」「B寝台」、後に改造で一部の列車で実用化された「個室寝台」の機能に極めて近い。正式な車両種別は座席車で、寝台車ではないものの車内で横になれる夜行列車と同じ機能が用意された。
これらが「ブルートレインみたい」「ブルトレ復活」と、廃止された夜行列車を知る鉄道ファンから懐かしさをもって歓迎された。1月25日に公開された車両の細部を見ても、フリースペースに「明星」「彗星」と廃止された列車名をつけていたりと、ブルートレインを意識しているのがうかがえる。
「銀河」の列車愛称も西日本エリアの魅力的な地域を星になぞらえ、その星々を結ぶ列車というコンセプトが発表されているものの、2008年まで東京~大阪間を走っていた夜行急行と同じ名前。このような大小の仕掛けが、ブルートレインでの旅に憧れた世代の興味を強く引いている。
「観光列車」「夜行列車」のハイブリッドになるか
運転計画は20年5月から9月まで京都~出雲市(島根県)間を山陽線・伯備線・山陰線経由の夜行特急として運転、10月から21年3月までは大阪~下関(山口県)間を山陽線経由の昼行特急として運転する計画でいずれも週2回程度の運転を予定。これもJRの観光列車が見落としていた需要をつかむ可能性を持っている。他の一般列車と同様の運賃・特急料金で乗車できるので「クルーズトレイン」とは違う、リーズナブルな夜行列車の旅が味わえるのだ。
全国でブルートレインが走っていた日本国内の夜行列車は新幹線・飛行機・高速道路の整備により衰退一辺倒で、現在は東京~出雲市・高松間の寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」の上下1往復のみになっている。これは車体が赤とクリーム色を基調としているため、寝台列車ではあるがブルートレインとは呼ばれない。
一方で豪華寝台列車「クルーズトレイン」として「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(JR西日本)「ななつ星」(JR九州)「TRAIN SUITE 四季島」(JR東日本)が運行中だが、これらは富裕層向けで数十万円という高額、かつ旅行商品として最初から発売されているため、旅程の柔軟性に欠ける面があり、敷居が高い。
しかしWEST EXPRESS銀河であれば通常の特急料金で、座席と簡易の寝台どちらも選べる。しかも寝台料金(サンライズ出雲・瀬戸で最も安いB寝台個室「ソロ」でも6600円)は不要とあって、「夜行列車での旅」そのものに憧れていたファン層にとってはたまらない列車といえるだろう。
ブルートレインの客車は末期には老朽化し、設備も昼間の特急などと比べると陳腐化していたが、WEST EXPRESS銀河ではバリアフリー対応のトイレ・ワイドな座席・チェスや将棋の卓がしつらえられたフリースペース、コンセントなど設備も時代に合わせてグレードアップしている。廃止されていった夜行列車・長距離列車に乗りたかったファンが夢想する、現代に通用する新しいタイプの夜行列車が実現したかのようだ。
ただ移動するだけが目的なら新幹線や夜行高速バスも選択できるので、夜行列車のニーズは高くない。しかしWEST EXPRESS銀河のように乗ってみたくなるサービスと、適正な価格の列車が現れれば、列車での旅自体に価値を見出すファンから一定の支持が得られる可能性は十分ある。
懸念されるのは列車に人気が集まれば切符がプレミアと化したり(旅行商品ではないので転売が容易)、117系自体が1980年代製造の古い車両ゆえ短期間の運行で終わってしまう可能性があることだが、特に夜行便の利用率が盛況となれば、観光のハイシーズンにこのような列車が定着することも考えられ、サンライズ出雲・瀬戸と共に稀少な夜行列車の楽しみを伝える存在になるかもしれない。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)