武漢チャーター機の帰国者は「全員隔離」すべきか 新型コロナ対策、専門家に見解を聞く

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   新型コロナウイルス感染による肺炎が広がる中国湖北省武漢市から政府チャーター機で帰国した日本人について、症状の有無を問わず全員を隔離すべきという声がインターネット上で広がっている。第1便が羽田空港に到着した2020年1月29日には、ツイッターのトレンドワードにも「全員隔離」が入った。翌30日には、帰国者のうち3人が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、うち2人は症状がなかった。

   政府は体調に問題がない帰国者を、「自宅やホテルで待機」してもらうようにしている。一方で報道によると、日本と同じようにチャーター機で自国民を帰国させているオーストラリアや韓国などは、帰国者を一定期間「全員隔離」する対応を取っている。全員隔離は必要なのか、関西福祉大学教授で医学博士の勝田吉彰氏に見解を聞いた。

  • 新型肺炎が世界に拡大している(写真はイメージです)
    新型肺炎が世界に拡大している(写真はイメージです)
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「全員隔離しないのかよ」

   厚生労働省は30日、国立国際医療研究センターでの検査の結果、チャーター機第1便の帰国者206人のうち40~50代男女3人から新型コロナウイルスが検出されたと発表した。うち2人は、帰国後も症状がなかった状態で感染を確認した初のケースとなった。同省は濃厚接触者の把握など調査を続けていく。

   206人が帰国した29日の同省の発表によると、この時すでに発熱などの症状があった5人は医療機関へ搬送。残る201人のうち同意を得た199人は同センターで検査を行い、8人に症状が認められ、7人が入院した。症状がなかった残る191人については、「少なくとも2週間は外出を控えていただくようお願いをするとともに、定期的に健康状態をフォローアップしていきます」としていた。検査の同意が得られなかった2人も自宅に送り届け、健康状態を見ていく。

   一方、帰国後に症状のみられなかった人は、一時滞在を受け入れている勝浦ホテル三日月(千葉県勝浦市)に向かうか、自宅に戻った。政府は、2週間の自宅待機を要請し、健康状態を確認していくことになった。

   新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大している状況を受け、諸外国も武漢にチャーター機を派遣しているが、帰国後の対応が日本と異なる国もある。韓国では帰国後2週間、韓国政府が指定した施設に帰国者を全員隔離。オーストラリアも同国領クリスマス島の施設に2週間、全員隔離すると、それぞれ複数メディアが報じた。

   こうした他国に比べ、チャーター機での帰国者を全員隔離とせず、症状がないとはいえ一部帰国者を「自宅・ホテル待機」とした日本の対応は、ネット上で議論の的となった。ツイッターでは「全員隔離しないのかよ」「同じチャーター機の搭乗者全員隔離しないっていう対応は、かえって帰国者の方の近隣住民の不信感や疑心を煽るから、良くないと思う」「武漢から日本に戻ってきた人間は全員隔離したの?してないよね?」などの声があがり、29日に「全員隔離」「自宅待機」といったワードがトレンド入りした。

「症状がない人は、『条件つきで』帰宅することもあり得ます」

   症状の有無を問わず、武漢に派遣したチャーター機での帰国者は全員隔離すべきなのか。関西福祉大学教授で医学博士、元外務省医務官の勝田吉彰氏はJ-CASTニュースの取材に次のように見解を示す。

「有症状者は隔離すべきで、すでに(入院しているため)そうなっています。『基本再生産数』という、1人の感染者が平均何人に感染させるかを表す数字がありますが、今回は1.4~2.5です。つまり、2人前後に感染させるリスクがあるからです。
一方、症状がない人は、『条件つきで』帰宅することもあり得ます。毎日2回体温を報告してもらい、呼吸器症状の有無も報告してもらいます。そして、症状が出たらすぐに病院に隔離できる、というのが条件です。帰国者のうち希望者は千葉県のホテルに宿泊し、多くの方が希望しているということですから、事実上の全員隔離になっているように思います。ただ、部屋数が人数分用意されておらず、相部屋になっている方々もいます。できれば全員部屋を分けた方がいいです」

   症状の有無による対応の違いについて、勝田氏はこう話す。

「症状が出ている人については検査できますが、症状がまったくない人に対しては強制的に検査できる法的根拠がありません。実際、第1便チャーター機の2人は同意を得られなかったので、強制的に検査できなかったのです。ただ、多くの方が検査を受けることに同意したことで、帰国者の意思によって、この事実上の全員隔離状態になることができたと言えます」

   ホテルでなく自宅待機となった人についても「先ほどの条件にしたがって1日2回、健康状態を報告する形をとれば、遅くとも半日遅れで症状が出たことを把握できます。不要の外出を控え、経過観察ができていれば、『見えない糸でつながった隔離』と言えます」と話した。

厚労省「過剰に心配することなく...」

   新型コロナウイルスの潜伏期間は14日程度とみられている。武漢渡航歴のない人の感染も確認され、厚労省は人から人への感染が起きていると認めた。潜伏期間中や、症状が出ていない感染者からも感染する可能性があるとされている。

   とはいえ、同省は30日午後の公式サイトでの発表でも、「現時点では広く流行が認められている状況ではありません」として、

「国民の皆様におかれては、過剰に心配することなく季節性インフルエンザと同様に咳エチケットや手洗いなどの基本的な感染症対策に努めていただくようお願いいたします」

とのメッセージを掲載。また、「武漢市から帰国・入国される方あるいはこれらの方と接触された方におかれましては、咳や発熱等の症状がある場合には、マスクを着用するなどし、事前に医療機関へ連絡したうえで、受診していただきますよう、御協力をお願いします。また、医療機関の受診にあっては、武漢市の滞在歴があることまたは武漢市に滞在歴がある方と接触したことを事前に申し出てください」とした。

   前出の勝田氏は、新型コロナウイルスの感染経路について「飛沫感染です。ウイルスを包んだ飛沫(痰・つば・鼻汁)を介して感染します。それが口・鼻・眼の粘膜が侵入門戸となって入ります。あるいは飛沫が表面に不着したドアノブや手すりに触れた手などを介して感染します」と説明する。

   したがって予防方法は「飛沫感染対策として、手洗い(手についたものを洗い、顔をさわったときに口・鼻・眼から入るのを防ぐ)、咳エチケット、ドアノブ等を頻繁にふくといったものがあります。飛沫感染するインフルエンザとまったく同じです」という。一方、「麻疹(はしか)ウイルス(飛沫核感染=空気感染)とは異なります。基本再生産数は麻疹の場合12~18に上りますが、新型コロナウイルスは麻疹のように空気感染しないため、感染力は麻疹の1/10くらいになります」と話した。

   武漢への政府チャーター機は30日、第2便が羽田空港に到着。帰国した日本人210人のうち、発熱などの症状がある13人が病院に搬送された。やはり強制的な全員隔離はせず、症状のない人は検査を受けたうえで、政府が用意した滞在先の警察大学校(東京都府中市)などへ移動した。

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