原子力発電所事故を風化させず事実を伝え続ける 開館から1年を迎えた廃炉資料館

提供:東京電力ホールディングス

   東京電力廃炉資料館(福島県富岡町)が、2019年11月30日に開館から1年を迎えた。東京電力福島第一原子力発電所の事故の詳細と、現在進行形で行われている廃炉作業の実情を紹介する施設だ。二度と事故を起こさないために、後世に伝えるべき事実と、廃炉作業の進捗を知る機会を提供する場所でもある。

   開館から1年。同館館長である鶴岡淳さんと廃炉資料館グループ主任の牧ノ原涼子さんが、資料館のこれから、そして「使命」について語った。

  • 東京電力廃炉資料館の外観
    東京電力廃炉資料館の外観
  • 2階の展示「その時、中央制御室では」
    2階の展示「その時、中央制御室では」
  • 「反省と教訓」の展示について説明する廃炉資料館グループ主任・牧ノ原さん
    「反省と教訓」の展示について説明する廃炉資料館グループ主任・牧ノ原さん
  • 2階の展示「福島第一事故の対応経過」ではARを駆使
    2階の展示「福島第一事故の対応経過」ではARを駆使
  • 1階の展示「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」
    1階の展示「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」
  • 原子炉をロボットが調査する様子が、足元に映し出された
    原子炉をロボットが調査する様子が、足元に映し出された
  • 廃炉作業員が身に着ける全面マスクや作業服が展示されている
    廃炉作業員が身に着ける全面マスクや作業服が展示されている
  • 1階「福島第一で働くひとびと」の展示
    1階「福島第一で働くひとびと」の展示
  • 廃炉資料館の鶴岡館長
    廃炉資料館の鶴岡館長
  • 取材に答える牧ノ原さん
    取材に答える牧ノ原さん
  • 東京電力廃炉資料館の外観
  • 2階の展示「その時、中央制御室では」
  • 「反省と教訓」の展示について説明する廃炉資料館グループ主任・牧ノ原さん
  • 2階の展示「福島第一事故の対応経過」ではARを駆使
  • 1階の展示「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」
  • 原子炉をロボットが調査する様子が、足元に映し出された
  • 廃炉作業員が身に着ける全面マスクや作業服が展示されている
  • 1階「福島第一で働くひとびと」の展示
  • 廃炉資料館の鶴岡館長
  • 取材に答える牧ノ原さん

さまざまな来館者、それぞれの思い

   「昨年12月1日には来館者数が延べ5万人を超えました。これは当初予想の2.5倍を上回る数字です。国内だけでなく海外からのお客様もいらっしゃっています」と話すのは鶴岡館長。各展示の説明パネルは日英表記で、実際、記者が話を聞いている間も、外国人グループが展示物をじっくりと見ている姿があった。

   案内は館内2階のシアターホールから始まった。ここでは、2011年3月11日の東日本大震災発生から、福島第一原子力発電所敷地内に襲い掛かる津波、電源を喪失し停電で真っ暗な中央制御室で必死に事態の打開を図ろうとする職員を描いた再現フィルムが生々しく映し出されていた。

   原子炉の各号機で実際に何が起きたかは、シアターホールと同じ2階にあるAR(拡張現実)を使った展示で詳しく解説している。原子炉の冷却機能喪失により、注水を試みる消防車、水素爆発を起こし煙が立ち込める1、3、4号機の建屋など、電源が復旧するまでの11日間の経過が表現されている。

   鶴岡館長は、「事故を決して風化させず、事実を伝え続けていくことが、私たちの使命です」と語る。その根本にあるのは、反省の気持ちだ。「福島への責任を果たすために会社が存続している。ゼロから反省して教訓を得なければ、次がありません。社員一人ひとりが反省と教訓を胸にし、学んでいかねば」と力を込めた。

   展示物の中にも「反省と教訓」というコーナーを設け、事故を繰り返さないために、事故の根本原因と背後要因を調査・分析した結果を報告している。

   鶴岡館長によると、来館者が記入したアンケートの中には「勉強になった」「後世に残る良い資料」との意見があった。被災者の一人は「なぜ自分が避難しなければならなかったのか、展示を見て分かりました」と回答した。

   一方で「反省と言われても心に響かない」という厳しい指摘もある。来館者の思いは、それぞれ違って当然だ。その中で「まずは、私たちがどう反省しているかをきちんと皆様に伝えていくことが大事だと思います」と、鶴岡館長は話す。

何が求められているのか、来館者との会話でつかむ

   2階が「事故の記憶と記録・反省と教訓」の展示なのに対して、1階では「廃炉現場の今」を伝える。プロジェクションマッピングや映像を駆使した内容も多い。そのひとつに、燃料取り出し・燃料デブリ取り出しの様子を映像で説明するコーナーがある。

   直径4メートルの原子炉に見立てた円形スクリーンが床に広がり、そこに1~3号機の原子炉格納容器で実施されているロボットによる調査の様子が再現される。小型のロボットが前進したり水中に投入されたりと、具体的な動きが見られる。こうした映像コンテンツなどを多く取り入れていることで、「とても分かりやすかった」という来館者の声は多いという。

   「福島第一で働くひとびと」の展示では、廃炉作業に携わるさまざまな職種の人々の写真の中に、1日当たりの作業員数が表示されていた。取材に訪れたこの日は3790人。鶴岡館長は「現場で作業に当たる人、研究開発に従事する人、本当に多くの人たちに支えられて廃炉が進められています。こうした皆さんのことを紹介していく必要があると思います」と語る。

   来館者も、廃炉現場や作業員の労働環境に興味を寄せているようだ。例えば、作業員が実際に装着する全面マスクを試着できるコーナーがある。

「立ち止まって、マスクを手に取って顔に着ける人は多いです。その姿を記念写真に収めたり、『意外と周りの人の声が聞こえるね』と感想を口にしたりされています」

   そう話すのは、廃炉資料館グループ主任の牧ノ原さん。

   そもそも、現在は全面マスクが必要なエリアは敷地内の数%に限られていることに加え、最新のマスクは、事故当初に使われていたものと比べて視界が大きく開け、呼吸のしやすさや声の通りやすさが増している。実際に顔を覆ってみて、体感できるのだ。

   牧ノ原さん自身は案内役を務める際、「いつも決まりきった説明を繰り返すのではなく、来館者との会話や反応を通して、『皆さんは何に興味を持っているか、どんなことを思っているか』に気を配るようにしています」と語る。展示物が多いため、「特にここが知りたい」「短時間で効率的に回りたい」といったニーズに対応しようと、以前はなかったモデルコースを作成するなど、工夫が続く。

   そんな牧ノ原さんも、地元で生まれ被災している一人だ。

   「(館内の)映像や展示物を見ていると当時の記憶がよみがえり、思わず目を背けたくなることもあります。しかし、体験したからこそ伝えられることがあると思い、自分にしかできない役割を果たせていけたらと考えています」と話す。

「事実」を伝えていく使命はずっと変わらない

   2階には、事故当時に対応に当たった社員9人が映像で振り返る展示がある。今後、証言を増やしていく予定だ。牧ノ原さんは「当館には当社社員も大勢来ていますが、中には当時まだ幼かった人もいます。そういう若手社員にも事実をきちんと伝えていきたい。被災した人たちは、10年たってもその時の気持ちを忘れることはないのですから、私たちが忘れるわけにはいきません」と表情を引き締めた。

   資料館は2年目を迎えたが、鶴岡館長によれば「事実を伝えていく私たちの使命は、今後ずっと変わりません」。廃炉の完了までの道のりは長い。だからこそ、「ここに来たら最新情報が分かるように、スピード感をもってわかりやすく情報を出していきます」と語った。

   彼らの地道な努力は決して途切れることなく続いていく。


【東京電力廃炉資料館】
~開館案内~
所在地:福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央378
開館時間:9時30分~16時30分
休館日:毎月第3日曜日 および年末年始
入館料:無料(駐車場無料)

~アクセス~
JRご利用の場合
東京からいわきまで常磐線特急で約2時間30分
いわきから富岡まで常磐線普通列車で約40分
富岡駅から徒歩15分、タクシー5分

車ご利用の場合
常磐自動車道広野ICより約20分
常磐自動車道富岡ICより約15分


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