原子力発電所事故を風化させず事実を伝え続ける 開館から1年を迎えた廃炉資料館

提供:東京電力ホールディングス

何が求められているのか、来館者との会話でつかむ

   2階が「事故の記憶と記録・反省と教訓」の展示なのに対して、1階では「廃炉現場の今」を伝える。プロジェクションマッピングや映像を駆使した内容も多い。そのひとつに、燃料取り出し・燃料デブリ取り出しの様子を映像で説明するコーナーがある。

   直径4メートルの原子炉に見立てた円形スクリーンが床に広がり、そこに1~3号機の原子炉格納容器で実施されているロボットによる調査の様子が再現される。小型のロボットが前進したり水中に投入されたりと、具体的な動きが見られる。こうした映像コンテンツなどを多く取り入れていることで、「とても分かりやすかった」という来館者の声は多いという。

   「福島第一で働くひとびと」の展示では、廃炉作業に携わるさまざまな職種の人々の写真の中に、1日当たりの作業員数が表示されていた。取材に訪れたこの日は3790人。鶴岡館長は「現場で作業に当たる人、研究開発に従事する人、本当に多くの人たちに支えられて廃炉が進められています。こうした皆さんのことを紹介していく必要があると思います」と語る。

   来館者も、廃炉現場や作業員の労働環境に興味を寄せているようだ。例えば、作業員が実際に装着する全面マスクを試着できるコーナーがある。

「立ち止まって、マスクを手に取って顔に着ける人は多いです。その姿を記念写真に収めたり、『意外と周りの人の声が聞こえるね』と感想を口にしたりされています」

   そう話すのは、廃炉資料館グループ主任の牧ノ原さん。

   そもそも、現在は全面マスクが必要なエリアは敷地内の数%に限られていることに加え、最新のマスクは、事故当初に使われていたものと比べて視界が大きく開け、呼吸のしやすさや声の通りやすさが増している。実際に顔を覆ってみて、体感できるのだ。

   牧ノ原さん自身は案内役を務める際、「いつも決まりきった説明を繰り返すのではなく、来館者との会話や反応を通して、『皆さんは何に興味を持っているか、どんなことを思っているか』に気を配るようにしています」と語る。展示物が多いため、「特にここが知りたい」「短時間で効率的に回りたい」といったニーズに対応しようと、以前はなかったモデルコースを作成するなど、工夫が続く。

   そんな牧ノ原さんも、地元で生まれ被災している一人だ。

   「(館内の)映像や展示物を見ていると当時の記憶がよみがえり、思わず目を背けたくなることもあります。しかし、体験したからこそ伝えられることがあると思い、自分にしかできない役割を果たせていけたらと考えています」と話す。

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