北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の叔母にあたる金敬姫(キム・ギョンヒ)氏の動静が2020年1月26日、約6年ぶりに国営メディアで報じられた。金敬姫氏は故・金正日総書記の妹で、13年12月に処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の妻。
金敬姫氏の動静が最後に報じられたのは13年9月で、重病説や死亡説が流れていた。6年を経て表舞台に復帰した狙いはどこにあるのか。
同行者では2番目に紹介、座席の順番は「金正恩→李雪主→金敬姫→金与正」
金敬姫氏をめぐっては、金正日氏死去後の一時期も、金正恩氏の実質的な後見人の役割を果たしたが、張成沢氏の処刑後は表舞台から姿を消していた。14年1月に朝鮮日報が韓国政府消息筋の話として、自殺か心臓まひで死亡した可能性を指摘していた。さらに、韓国メディアによると、金敬姫氏には糖尿病やアルコール中毒と言った持病があるとされ、17年8月に情報機関の国家情報院(国情院)は、「平壌近郊で隠遁しながら病気治療中」だと国会に対して報告していた。
20年1月26日付の労働新聞では、金正恩氏が1月25日に妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏とともに旧正月記念公演を平壌市内の劇場で鑑賞したことをトップ項目で報じており、同行者として金敬姫氏の名前も登場している。
記事では、同行者を崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、金敬姫氏、李日煥(リ・イルファン)党副委員長、趙甬元(チョ・ヨンウォン)党第1副部長、金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長、玄松月(ヒョン・ソンウォル)三池淵(サムジヨン)管弦楽団長兼党宣伝煽動部副部長の順番で紹介している。金敬姫氏が紹介された2番目という順番は、金敬姫氏の政治的復権を反映している可能性もある。
労働新聞に掲載された写真からも、それはうかがえる。金正恩氏が最も目立つ位置に映っているのに続いて、向かって右隣に李雪主氏が着席。さらに右隣に金敬姫氏、金与正氏の順で座った。
確執指摘されても復権させた理由
北朝鮮では、白頭山を抗日ゲリラの拠点が設けられた「革命の聖地」と位置付けており、金日成主席の直系血族を「白頭山血統」と呼ぶ。聯合ニュースは「白頭山血統『第2世代』の金敬姫は金正恩体制の正統性を象徴する人物でもある」と指摘している。
金正恩氏と金敬姫氏との間には確執も指摘されてきた。その一例が、韓国に亡命した北朝鮮の元駐英公使、太永浩(テ・ヨンホ)氏による手記「三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録」(文芸春秋)だ。それによると、
「金正日の生前、金敬姫と張成沢が(編注:金正恩氏の母親とされる)高英姫の存在を疎ましがっているといううわさが出回った。高英姫とその子どもたちが金日成に一度も顔を見せることができなかったのは、金正日が彼らを隠してきたことも理由の一つかもしれないが、金敬姫が頑として反対したからだという説もある」
などとして、高英姫氏が金敬姫氏に抱いた反感を、そのまま金正恩氏が引き継いでいると分析。さらに、金正恩氏は金日成主席と撮った写真が1枚もないことが「口惜しくてたまらなかった」とみている。「金日成と撮った写真が1枚でもあったなら、自らが『白頭山血統』であると100回叫ぶよりずっと効果的だった」からだ。
金正恩氏と李雪主氏の夫妻は19年12月に白頭山を訪れたばかり。金正恩氏としては、確執が指摘されている金敬姫氏を復権させることで、自らが「白頭山血統」の一員であることを誇示し、一族の結束をアピールする狙いがあるとみられる。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)