泣いた――。
181センチ、188キロの大男が、人目をはばからず号泣した――。2020年1月26日に行われた令和初となる「大相撲初場所」(東京・両国国技館)で、幕尻の西前頭17枚目・徳勝龍が、千秋楽「結びの一番」で大関・貴景勝を寄り切りで下し、14勝1敗で初の幕内最高優勝を果たした。
「自分なんかが優勝していいんでしょうか?」に国技館も拍手喝采
相撲担当の記者を何年か経験したこともある筆者だが、幕尻の関取が千秋楽の「結び」で大関を破って優勝を遂げたという場面は、記憶にない。27日付のスポーツ紙も1面で大きく報じ「史上最大の下克上」という見出しが、大きく踊った。
記録づくめの初優勝だった。幕尻からの優勝は、2000年春場所の貴闘力以来、20年ぶり。また奈良県出身の力士としては、98年ぶりの快挙となった。放送していたNHKでは、地元の奈良と中継を結び、勝った瞬間の地元は大歓声が沸き起こった。徳勝龍は現在、33歳5か月。この年での初優勝は、大相撲の「年6場所制」が定着した1958年以降、3番目の遅さだ。下記が、歴代ベスト3である。
(1) 旭天鵬=37歳8カ月(2012年夏場所)
(2) 玉鷲=34歳2カ月(2019年初場所)
(3) 徳勝龍=33歳5か月(2020年初場所)
旭天鵬、玉鷲はモンゴル出身で、徳勝龍は日本出身力士としては最年長初優勝記録更新となった。インタビューでは、涙を浮かべながら、
「自分なんかが、優勝していいんでしょうか?」
と話し、国技館内は爆笑、そして大きな拍手が巻き起こった。
通常、幕尻は上位陣とは当たらない
大相撲では、取組のことを「割(わり)」と呼ぶ。アナウンサーや解説者が多用する「本割」も、これに由来している。割は、基本的に日本相撲協会の審判部が事前に決定するものだが、幕尻の関取が「千秋楽の結びの一番」に登場することは、ほとんどない。横綱が頂点、次が大関、関脇、小結...と序列がある上、15日間という期間が決められている本場所では、おのずと対戦力士が決まってしまうことも多い。つまり、幕尻の関取が、千秋楽の結びで横綱や大関は当たることは、めったにないと考えていい。
その点、今場所は横綱の白鵬、鶴竜が序盤戦で相次いで休場。徳勝龍と同じ年の大関・豪栄道も、5勝10敗という成績で、3月に行われる春場所では関脇となってしまう。大関・貴景勝を中心に関脇、小結、前頭上位が星を潰し合う中、幕尻の徳勝龍は着実に白星を重ねて行った。
結果、千秋楽「結びの一番」後の涙につながった。
徳勝龍の地元である奈良テレビ放送は、ツイッター上で、
「結びの一番、 襲い掛かる重圧は 観ている私達さえも飲み込みそうに 水でわずかに口を湿し、 キッと見開いた眼差しに しかし、迷いや怖れを微塵も見せず 弾丸のようにぶつかり合い 火照った身体に渾身の力を込め 見事な初優勝 男泣き、確と見届けました!」
と綴っている。
笑いながら涙する徳勝龍を見て、「おめでとう」の気持ちとともに、何だかホッコリした気持ちになってしまった人も多いはずだ。
3月の春場所は、大阪で行われる。地元・奈良の方々が多く訪れ「徳勝龍~!」というコールが巻き起こるのではないだろうか。
(J-CASTニュース編集部 山田大介)