米国と北朝鮮の非核化をめぐる協議が行き詰まる中、対米交渉を担ってきた李容浩(リ・ヨンホ)氏が交代させられたとの見方が出てきた。北朝鮮専門サイト「NKニュース」が2020年1月18日、平壌の情報筋の話として報じたもので、聯合ニュースをはじめとする韓国メディアも後を追う形で伝えている。
後任は、韓国側との窓口機関にあたる祖国平和統一委員会の委員長や、南北高位級会談の北側団長を務めた、軍出身の李善権(リ・ソングォン)氏だとされている。これ以外にも国外の北朝鮮外交官の相次ぐ帰国が伝えられており、北朝鮮の外交方針に変化が起こる可能性もある。
韓国企業トップを前に「冷麺がのどを通るのか」
北朝鮮側は外相交代人事を発表していないが、抗日運動に参加した「革命第1世代」の黄順姫氏(ファン・スンヒ)氏が1月17日に100歳で死去し、通常は閣僚らが名を連ねる国家葬儀委員会に李容浩氏の名前がなかったことから、人事は現実味を持って受け止められている。
李容浩氏は駐英大使や外務次官などを歴任するなど外交官として30年以上のキャリアを持ち、16年に外相に就任。崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官らと米側の交渉に臨むなどして対米外交を担ってきた。
一方の李善権氏が主に活動してきたのは対南政策。韓国に対する強硬発言を繰り返してきたが、それ以外の外交経験は未知数だ。特に2018年9月に平壌で行われた南北首脳会談の際のエピソードは有名だ。文在寅大統領に随行していた韓国企業トップがレストランで食事をしていた際、李善権氏が現れて「冷麺がのどを通るのか」と発言。南北関係が進展しないなかで「悠長に冷麺を食べていられるのか」という意味の皮肉だと受け止められ、不興を買ったという経緯がある。
核実験やICBM発射再開のリスクは...?
北朝鮮が1月11日付で発表した金桂官(キム・ケグァン)外務省顧問による談話では、膠着状態にある米朝関係について、「わが国務委員長(金正恩氏)とトランプ大統領の親交が悪くないのは事実」だとしながらも、対話の再開には米国側が北朝鮮側の要求を全面的に受け入れることが前提だと主張。その上で
「われわれは米国がそのようにする準備ができておらず、またそのようにすることもできないということをよく知っている」
とも指摘し、事実上対話の再開が難しいことを示唆している。こういった状況が今回の人事にも反映され、現時点では中断している核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射再開を含む、対米強硬路線を強める可能性もありそうだ。
ハンギョレ新聞によると、1月18日には駐中国北朝鮮大使や国連代表部の大使が北京を経由して平壌に帰国する姿が目撃されており、「北朝鮮の対外戦略の再整備と関連した動きという観測が出ている」としている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)