アイドル界の老舗、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)は、2019年の年末から2020年にかけて、観覧マナーのレギュレーションの大幅な変更に踏み切った。
ライブ・コンサートでのスマホでの写真撮影を解禁する一方、イベントでの「ジャンプ」行為を全面禁止としたのである。アイドルを応援する定番行為とされてきたジャンプをなぜ禁止したか――ハロプロの変針には、応援マナーへの認識の変化や、SNS社会の影響が見え隠れする。
「跳び納め」楽しむファンも
「モーニング娘。'20」などが在籍するハロプロが「ジャンプ禁止」の告知を行ったのは、19年10月24日だった。公式サイト上で、2019年内の公演をもって、全てのハロプロ公演でジャンプ行為を禁止するとした。
「過度なジャンプ行為に関して、状況を改善すべく、各会場でスタッフによるお声かけ・注意をさせて頂いてまいりましたが、残念ながら、依然として以下の状況が発生しております」とつづり、「ジャンプした観客による視界の妨害、接触や怪我」「観客同士のトラブル」をジャンプ禁止の理由に挙げた。
一方、19年11月28日には公演中のスマホによるステージ撮影を試験的に解禁すると発表し、19年の公演の結果を踏まえて2020年1月~2月に開催の全グループ合同コンサート「Hello! Project 2020 WINTER」(通称ハロコン)でも同様に撮影解禁となった。ジャンプ禁止前最後の公演になった2019年大みそかの「Hello! Project COUNTDOWN PARTY 2019⇒2020」(通称カウコン)では「跳び納め」と称してジャンプを満喫したファンもいた。年明けのハロコンでは、ジャンプ禁止のため場内でのファンの動作をチェックするスタッフがいることなども客席から報告されていた。
そもそも20年以上の歴史があるハロプロの、今回の切り替えはどういう背景が考えられるのだろうか。ハロプロを中心に様々なグループのイベント現場に参加しているあるアイドルファンは、「コンサート会場に女性ファンが増えてきているのは明らかですが、更に女性ファンが増えるような現場にする事を狙っていると思います。女性はスマホ撮影が好きですし、総じて身長が男性より低いのでジャンプ禁止で、むしろ現場に行こうと思う女性が増えると思います」と推測する。
ジャンプ禁止は「時代の流れ」か
ハロプロなどでは様式化されたジャンプなどの応援行為も楽しみのひとつ、とするファンも決して少なくはなかった。しかし特に「マサイ」と呼ばれる繰り返し高く跳ぶ行為が周辺の視界を妨げたり、観客同士の接触トラブルを招いたりしており、元々「過度のジャンプ行為」は禁じられていた。今回の方針変更はこのようなトラブルの要因を一律に排除する意図があったのでは、とファンらは推測する。
アイドル界全体を見ても、比較的珍しいといえるジャンプ全面禁止。アンダーグラウンドなイメージが強かったアイドル現場を、安心して通える雰囲気にしたい、との目論見がハロプロにはあるようだ。今回のニュースへの感想には
「思い切りジャンプ出来ていた時代が懐かしいな」
「ライブで耐久ジャンプも推しジャン(推しのソロパートでのジャンプ行為)も出来ないとか時代変わったなぁ」
などが見受けられた。
集客のため「撮影OK」は少なくない
もう一つの新方針、アイドルのライブやイベントでの「撮影解禁」は珍しいことではない。そのパイオニアの1つが「わーすた」で、スマホでの動画・写真撮影は基本的にどんなイベントでも可能。グループ名の「わーすた」は海外のアーティストの「ワールドスタンダード」を意識して命名されていて、撮影OKも海外のトレンドに沿ったもの。
=LOVE(イコールラブ)に至っては、一眼レフで撮影できる「カメコ席」を設け、プロ顔負けの写真をネットにアップすることも習慣化している。逆にスマホ・携帯での撮影は禁止で、アイドルの美しい一瞬を切り取った写真で集客を狙っているといえる。その他、AKBグループの劇場公演など、撮影可能タイムを設けたりしているアイドルグループが少なくない。毎年恒例のアイドルフェス、TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)では、2019年には70以上のアイドルのステージがスマホ撮影解禁になっていた。
スマホの普及で一般ファンでも写真撮影が容易になり、ネットでの写真の共有・拡散にメリットを見出しているのが現代のアイドル界のトレンド。むしろハロプロの方が追随し撮影しやすい環境づくり、またトラブル抑止のためにジャンプの全面禁止という措置をとったと言える。
ハロコンではまだ「ジャンプして退場客が出た」と報告する観客のツイートもある一方、撮影写真をアップロードしてファン同士で共有・拡散するのが習慣化しつつある。もっとも、ハロプロは19年末の撮影解禁時に「設定したハッシュタグをつけてアップしていただければと思います」とアピールしていたものの、ハロコンではハッシュタグが作られることもなく、ファン以外への認知度が上がっているかは微妙なところである。
アイドルカルチャーの「大衆化」と撮影環境の進歩で、アイドル現場のルールも変動しつつあるようだ。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)