2019年10月の消費税率引き上げほどの影響はないが、20年10月にも暮らしに関わりが大きい税金の制度変更が予定されている。ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の税額を統一するための税額変更の第1段階が実施され、酒税を350ミリリットル缶に換算するとビールが77円から70円に引き下げられ、逆に第3のビールは28円から37.8円に引き上げられる。
こうした動きを反映して、ビール類を製造・販売する国内大手が発表した2020年の事業計画は、ビールに注力するメーカーもある一方で第3のビールを強化するメーカーもあり、販売戦略が二分した。
税額の差が縮まる
ビール類の販売でトップを走るアサヒビールが2020年に力を入れるのは、ビールの主力商品「スーパードライ」の復活だ。1987年に誕生して、現在でもビールの国内シェアで約5割を誇るトップブランドだが、愛飲してきた世代の年齢が高くなっており、若い世代をいかに引き込んでいくかが課題になっている。高かったブランド力も陰りを見せており、2019年の販売量は前年比で5%減少した。それでも、第3のビールに比べると利益率の高さは強みであり、減税を追い風にしながら、東京五輪・パラリンピックの公式ビールでもあるスーパードライの販売促進に資源を集中させる戦略だ。
これに対してキリンビールが2020年に注力するのは、増税となる第3のビールだ。18年に発売した第3のビール「本麒麟」は、ビールに近い味わいが消費者に好評で、キリンがビール類の販売量でアサヒに肉薄するまで復活を果たした原動力となっている。増税になってもキリンが第3のビールを推すのは、20年10月の税額変更の後も350ミリリットル缶換算でなお30円以上もビールより税額が低く、加えて原材料や生産コストが低いため、税額が統一されても価格の優位性は続くと見込んでいるからだ。19年10月の消費税増税によって節約志向は強まっており、価格のわずかな差にも消費者は敏感に反応するとの読みがあるのだ。
サントリーは、主力ブランドであるビールの「ザ・プレミアム・モルツ」と第3のビール「金麦」をいずれもリニューアルして、2020年の販売増を目指す。プレモルのCMキャラクターだった女優の石原さとみさんを金麦にスライドさせる異例の広告戦略を年初から始めている。
「ビール復権」のきっかけになるか
ビール類に関する酒税は、2020年10月に続いて23年10月にもビールを下げて、第3のビールを上げ、350ミリリットル缶換算でビールは63.35円に、第3のビールは発泡酒と同額の46.99円となる。そして26年10月にビール類全体を54.25円に統一する。複雑な税制が日本独特の「ビールに似たアルコール飲料」を生み出したという反省があるからで、3段階に分けて実施するのは、徐々に税額を変更することでメーカーが販売戦略を練りやすくするためだ。
ビール類の販売量はバブル期にピークを迎えた後は減少傾向が続いている。台風などの天候不良が影響した2019年は業界全体で前年比1~2%減となり、15年連続の前年割れとなった模様だ。アルコール飲料は多様化が進んでおり、「とりあえずビール」の注文も減ってきているという。果たして、ビール類の税率統一が「ビール復権」のきっかけになるか。それを決めるのは、消費者だ。