世界最高峰の選手でも時間が足りなかった
当時、記者はスピードスケートを取材しており、現場ではスラップスケートの話題で持ち切りだった。どの選手がどのタイミングでスラップスケートに切り替えるか。そしてスラップスケートにどのようにして対応するか。なかでも注目を集めたのは、日本スピードスケート短距離界の両エース、清水宏保氏と堀井学氏だ。長野五輪直前に出現した「魔法の靴」は、日本の2人のエースの明暗を分けた。
「ロケットスタート」が代名詞だった清水氏は1996年に男子500メートルの世界記録を更新し、一躍、長野五輪の金メダル有力候補とされた。一方の堀井氏は前回大会の94年リレハンメル五輪の男子500メートルで銅メダルを獲得。97年の世界選手権では同種目で優勝しており、清水とともに金メダル候補として大きな期待がかかっていた。
結果からいえば、清水氏が男子500メートルで金メダル、1000メートルで銅メダルを獲得したのに対し、堀井氏はメダルなしに終わっている。スラップスケートへの対応に自信があったという清水氏は独自に改良した靴を使用して期待に応えた。一方の堀井氏はノーマルタイプからスラップスケートへの切り替えが遅れた。世界最高峰の技術を備えていた堀井氏をもってしても順応するための時間が足りなかった。
スポーツ選手と用具は切っても切れない関係にあり、その歴史を振り返れば用具の品質向上が記録の向上を後押ししてきた。英メディアが報じるように何らかの理由で「厚底シューズ」が禁止となれば、選手が受ける影響は少なくないだろう。長野五輪の時とは逆のケースとなるものの、選手が強いられる「負担」は変わらない。選手ファーストと謳うのならば、一刻も早い解決が望まれる。
(J-CASTニュース編集部 木村直樹)