米スポーツ用品大手ナイキの「厚底シューズ」問題が大きな波紋を広げている。マラソンをはじめとする陸上の長距離で「厚底シューズ」を使用した選手による好記録が続出。これを受けて世界陸連が新規則によって禁止すると複数の英メディアが報じたことで事態は混迷している。2020年東京五輪を半年後に控え、選手、関係者からは困惑の声が上がっており、「厚底シューズ」を巡って陸上界が大きく揺らいでいる。
いまや陸上の長距離選手にとって必須アイテムとなっているナイキの「厚底シューズ」。男子マラソンの世界記録保持者エリウド・キプチョゲ(ケニア)が愛用していることでもしられ、日本記録を持つ大迫傑(ナイキ)ら多くの日本トップランナーが履いている。この流れは学生スポーツにも波及し、今年の箱根駅伝では出場210人中177人がこのシューズを履き、シェア率は実に84.3パーセントだったという。
「魔法の靴」はオランダ製スラップスケート
「魔法のシューズ」は陸上界の常識を変えたといってもいいだろう。靴底に炭素繊維のプレートを内蔵し、これをミッドソールで挟むことによって高い反発力とクッション性が生み出されるという。これまでマラソン選手らが履いていた薄いソールとは全く逆の発想から作られたもので、効果のほどは明記するまでもなく、マラソンや駅伝などの記録ラッシュが如実にそれを物語っている。
かつて冬季五輪で「魔法の靴」といわれたものがある。スピードスケートのスラップスケートである。オランダのバイキング社が開発したスケート靴で、1997年にオランダ選手がスラップスケートを履いて好記録を出したことで世界中の注目を集めた。スラップスケートはすぐに世界に広まり、98年の長野五輪では日本代表をはじめ多くの国の選手が使用し、レースを大きく左右した。
スラップスケートは「厚底シューズ」同様に画期的なものだった。これまでのスケート靴は、靴とブレード(刃)が完全に固定されていたが、スラップスケートはかかととブレードをつなぐ部分が離れ、バネ仕掛けで戻る仕組みとなっていた。次々と記録が更新される事態に一部では禁止を唱える声があがったが、国際スケート連盟は使用を許可し、長野五輪では5種目で世界記録が誕生した。