政治家の発言やニュース報道の内容について事実関係を検証する「ファクトチェック」は、韓国で盛んに行われている。ソウル大学では「ファクトチェックセンター」が設置され、今では大手新聞社やテレビ局など27機関が参加している。
センター長のチョン・ウンリョン氏が2020年1月11日、ファクトチェックを支援する国内団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」などが都内で開いた研究会に登壇し、その取り組みについて紹介した。政治家の発言を検証したことで政党から刑事・民事で告訴されたり、世論と違う検証結果に対して強い批判が寄せられたりと困難もあるが、ファクトに基づいて粘り強く説明を続けていく重要性も強調された。
大統領選の2017年が「ファクトチェック元年」
韓国にとっての「ファクトチェック元年」は17年だ。この年は5月に大統領選の投票が行われ、これに先立つ3月にファクトチェックセンターがスタート。東亜日報出身のチョン氏が初代センター長に就任した。チョン氏によると、
「政治的指向や党派の違いが現実に存在する中で、ジャーナリストの間で合意できる言説の規範は果たして何なのか。事実を正確に伝えること、少なくともこのことについてだけは、政治的指向性の違いを超えて合意できると思った」
などとしてメディアに広く参加を募った。その結果、大統領選が行われた41日間で、12社が候補者の発言など144件についてファクトチェックを行い、うち88件が「事実でない」「おおむね事実ではない」と判定された。
こういった取り組みには反発も大きかった。野党の自由韓国党は、
「候補者の言葉が事実かどうかを判断したことで選挙に影響があり、党の名誉を棄損した」
などとして、公職選挙法違反や名誉棄損の容疑で刑事、民事の両面でファクトチェックセンターを告訴したが、刑事では起訴に至らず、民事では原告敗訴となった。
この問題をめぐっては、ソウル南部地方裁判所は判決文で、
「報道機関が定める検証の結果が常に正しいとは断定できない。しかし、メディアが信頼できる根拠に基づき、合理的な思考プロセスを通じて判断を下した場合、それを容易に名誉棄損だと認めるべきではない」
などとする見解を示している。チョン氏は
「ファクトチェックの意義について裁判所が認定したことに意味がある」
と説明した。
世論と違う結果出ると「韓国の読者から大変な攻撃にさらされる」
日本がファクトチェックの対象になることもある。同センターのファクトチェックで、「日本」という文字が含まれるものは約200件。日本に関連する出来事が検証の対象になったり、日本のデータが比較対象として用いられたりしているケースだ。東京五輪や、福島の放射線をめぐる問題に関する関心が高いという。ファクトチェックセンターでは、これらの問題について、民放のSBSとファクトチェック専門機関の「ニューストップ」を支援している。
例えば、「東京の『ホットスポット』は、レントゲン写真を100万回撮る(被ばく)量である」という書き込みには、現地に出向いて放射線量を測定した結果などから「まったく事実ではない」と結論づけた。
ホットスポットについての検証結果は、「韓国人からすれば『日本寄りの判断をした』ということになる」(チョン氏)。それでも丁寧に説明していくことの必要性を強調した。
「こういった場合は、韓国の読者から大変な攻撃にさらされる。取材した記者は、その攻撃に対して、ひとつひとつ反論し、説得にあたる。根拠のない非難や批判に対して、合理的な事実をもって説得するというのがファクトチェックの目的だと、この記者は考えている」
チョンさんに続いて、公共放送KBSの記者出身で、全国言論労働組合主席副委員長を務めるソン・ヒョンジュン氏が登壇。テレビ番組でのファクトチェックの取り組みを紹介した。ソン氏は
「日韓の不協和音を最小化するのが民間の役割だが、それを担う韓国の保守的メディアが間違った記事を書き、それをそっくりそのまま日本の保守的メディアが引用して日本に伝える。そのために国民同士が対立してしまう」
などとして、ファクトチェックを通じた日韓協力が両国関係の改善に寄与することを訴えた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)