屈辱の未勝利でAFC U-23アジア選手権(タイ)を去ったサッカーの東京五輪代表は、森保一監督(51)の解任をめぐる議論が熱を帯びている。勝利が至上命題とされたグループリーグ(GL)第3戦カタール戦は、不運な判定があったとはいえ引き分け。東京五輪が半年後に迫る中、「意地」を見せることはできなかった。
結果を出せなかった森保監督は続投すべきなのか、解任すべきなのか。J-CASTニュースは、元日本代表の名良橋晃氏(48)に見解を聞いた。
「どう攻め、どう守るかという共通理解が足りなかった」
サウジアラビアとのGL第1戦、シリアとの第2戦をいずれも1-2で落とし、同大会初のGL敗退が決まったU-23日本代表。2020年1月15日に行われたカタールとの第3戦は、後半27分にFW小川航基が先制ゴールをあげるも、同33分にPKを献上し、同点に追いつかれた。
前半終了間際にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の結果、MF田中碧がまさかのレッドカードを提示され、失点のPKを与えたMF齊藤未月のファウルも微妙な判定と、腑に落ちないレフェリングがあったとはいえ、結果は1-1の引き分け。優勝を目指した日本だが、1勝もできずに敗退した。
名良橋晃氏は、今大会の日本代表の戦いぶりをこう振り返る。
「五輪世代のベストメンバーでなかったとはいえ、本来は誰が出ても、チームとしての大枠・コンセプトを試合で表現できないといけない。逆にコンセプトが落とし込めていれば、誰が出場してもある程度戦える。あとは選手個々の能力次第になる。
その意味で、大会通じてチームコンセプトは見え隠れしていた。攻撃はボールを自陣から前に運びながら、両サイドの突破からのクロス、あるいは1トップに当てて2シャドーが絡んで中央から突破、そういったことはある程度できていた。一方で、やはりチームとしてできなかったことの方が多かったと思う。どう攻め、どう守るかという共通理解が足りなかったのが、この結果につながったと思う。
相手のプレッシャーが少ない状況なら、ボールはつなげていた。だが、この3試合のように引いて守る相手に対しては崩しきれない。サッカーは相手ありきのスポーツだ。相手の特徴を把握しながら、チームとして順応していく柔軟性が必要になる。アイデアも、連携も足りない。カウンターの迫力なども、体力的なキツさはあったかもしれないが、足りなかった。
あとはパスやシュートの精度など、個々のプレーの質。これは一朝一夕では向上しない。選手各々が突き詰めて継続していく必要がある」
「森保監督にも迷いがあっただろう」
問題はそのチームを率いる森保監督だ。名良橋氏は指揮官の胸中を次のように推測する。
「A代表との『兼任監督』の難しさが出たように思う。海外組もMF食野亮太郎選手以外呼べなかった。森保監督は代表日程が被ればA代表に帯同しており、五輪代表につきっきりではなかった。今大会は選手の見極めに比重を置いたのではないかという印象がある。
もちろん勝利にはこだわってほしい。交代カードを切るのが遅いのも気になった。だが、この高温多湿な環境、この真剣勝負の場で、どの選手に何ができるのか、そのジャッジを慎重にしながら采配していたように思う。
東京五輪が半年に迫り、選手を選考する時期として遅いとは思うが、五輪メンバーは18人しか選べない。誰が戦えるか見極めないといけない。フィールド選手でMF遠藤渓太選手とMF菅大輝選手を一度も起用しなかったのは疑問が残るが、森保監督にも迷いがあっただろう」(名良橋氏)
ただ、監督だけの問題とは言い切れない。日本サッカー協会のサポートも問われてくるという。
「兼任で森保監督の負担が大きい中、技術委員会中心に協会はサポートできているのか。戦い方や選手選考など、最終的にまとめるのは森保監督だろうが、その前に情報を集約できているのか、森保監督に頼りすぎていないかという心配はある。五輪は代表に拘束力がないので、所属クラブが海外組の選手招集に応じるかどうかも不透明。そこは協会が力を惜しまないといけない。
かつて(フィリップ)トルシエ監督も(00年シドニー五輪代表とA代表の)監督を兼任していたが、代表への注目度は当時より格段に増した。今はアジアで勝って当たり前という空気があるし、東京五輪は優勝を目標に掲げている。プレッシャーは大きい。五輪世代にも海外組が増えてきたし、さらにオーバーエージの生かし方も考えないといけない。選手選考は相当迷い、長引いていると思う。その迷いが、チームコンセプトを落としきれない状態につながっているのではないか」(同)
解任すれば「ハリルホジッチ氏の時の二の舞にならないか」
インターネット上でも批判の声が大きくなっている森保監督。五輪監督からの解任論をどう思うか、名良橋氏は「難しい判断。五輪まで時間は限られている」としてこう話す。
「解任すべきかどうかは何とも言えない。ただもし解任するとしたら、横内(昭展)さんならOK、それ以外ならNGだろう。森保さんの兼任を解いてA代表のみの監督にし、横内さんを五輪監督にするという判断なら、遅くないと思う。
横内さんは、森保監督より東京五輪世代を見てきた。トゥーロン国際大会でも準優勝という結果を出している。森保監督の隣で支えてきた方なので、戦術の落とし込みは森保監督と共通しており、連続性は保てるだろう」
横内昭展氏(52)は、森保監督がA代表に帯同している時に五輪代表の監督代行をつとめており、今のチームをよく知る人物。19年6月のトゥーロン国際大会は、決勝で敗れて準優勝だったものの、ブラジル相手にPK戦までもつれ込んだ。同10月に親善試合でブラジルと再戦した時は、3-2で勝利した。
一方、「横内氏以外はNG」について、名良橋氏はバヒド・ハリルホジッチ氏の解任劇を引き合いにこう話していた。
「今まったく新しい監督を呼んでも、チーム作りの時間がない。サッカーの中身が変わるとすれば、『今まで積み重ねてきたことは何だったのか』は問われる。実際、ハリルホジッチ氏がロシア・ワールドカップ(W杯)2か月前に解任された時がそうだった。
このまま森保監督が兼任するなら、協会がサポート体制を整えないといけない。もし解任するなら、ハリルホジッチ氏の時の二の舞にならないか、考えないといけない。ロシアW杯はベスト16という結果が出たが、東京五輪でもそうなるかは何も分からない」
(J-CASTニュース編集部 青木正典)