サウジ戦、「データ上は圧勝」の日本は何故敗れたか 名良橋晃氏が見る「後ろ向きのパス」の背景

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   東京五輪世代で戦うサッカー「AFC U-23選手権」のサウジアラビア戦は、1-2での敗北という結果の一方、スタッツ(成績、データ)の面では日本が「圧倒」した。AFCが公表したところでは、ボール保持率は日本65.8%、サウジ34.2%で、パス本数は日本567本、サウジ292本と2倍近い差。逆に、いかにゴールに直結しないパスを出していたかを物語るともいえそうだ。特に「バックパス」の多さはインターネット上でも指摘があがった。

   元日本代表でフランスW杯出場の名良橋晃氏は、この試合内容に「選手間のイメージがかみ合っておらず、それが後ろ向きのパスにも直結していたと思う」と見解を述べる。その背景には、試合中の対応力の不足があるという。

  • 名良橋晃氏
    名良橋晃氏
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前線へ運んでも、後ろ向きのパスで最終ラインへ

   タイで開催されている同大会。日本のグループリーグ(GL)初戦となるサウジアラビア戦は2020年1月9日に行われ、1点差での黒星スタートとなった。一方、AFCの公式スタッツを見ると、主要な項目は軒並み日本が上回っていたことが分かる。冒頭のボール保持率、パス本数に加え、パス成功率は日本84.7%、サウジ71.9%。シュート数も同11本と8本だった。

   ただ、パスといっても消極的に映る後ろへのパスもある。たとえば後半14分、相手陣内の右サイドでスローインを得ると、パスを繰り返してボールはGK大迫敬介まで戻っていった。

   同17分には、前線で左のDF杉岡大暉にパスが渡ると、相手のディフェンスラインが下がった。杉岡からパスを受けたMF食野亮太郎は、ボランチのMF田中碧に預けると同時に裏のスペースへ走り込んだが、そこにパスは出なかった。日本はショートパスを繰り返し、結局自陣内までボールを戻している。同30分にも、左サイドの相手ペナルティエリア付近でパス回しをしていたと思ったら、自陣内の最終ラインにまで引き返すという同様のシーンがあった。

   そうした中で生まれたのが、1-1で迎えた同40分のPK。DF古賀太陽は杉岡からパスを受けると、さらにバックパスをしたが、出した先が大迫かDF岡崎慎か、曖昧になった。奪った相手選手がペナルティエリアに進入すると、ファウルで止めてPK献上。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による検証で、岡崎が後ろから足を当てたとしてイエローカードを提示された。これが沈められ、決勝点となった。

   もちろん、データ上の優位がそのまま勝敗につながるわけではない。また最終ラインやGKまで戻すバックパスもプレーの選択肢の1つであり、決してそれ自体が悪手ではない。ただ、スタッツと結果との乖離や、悪目立ちした後ろ向きのパスには、ツイッターやネット掲示板でも厳しい見方をするユーザーが少なくなかった。

「パスを回すだけで勝敗決めるなら優勝できそう」
「ゴール前でボールを受けてからシュートまでが遅い。またはバックパスで戻しすぎ」
「やたらバックパスするのはその数字を稼ぐ為か 何の意味があんのかほんと謎だったわ」
「失敗してもいいから前に進むサッカーをして欲しい。前線まで行って後ろ戻してDFで回しての繰り返し多すぎ」
「【朗報】内容では圧勝」

「パスの質の違いも出さないと、怖さは与えられない」

   元日本代表の名良橋晃氏は10日、J-CASTニュースの取材に、この試合のスタッツと結果の関係について次のように話す。

「相手にとって怖いポゼッション(ボール保持)ができていなかった。縦パスや、バイタルエリアから相手ゴールを脅かすパスは少なかった。守備を構えるブロックの外や、自陣でボールを回す時間が長く、それがパス本数になっていただけだろう。

どこでボールを持っていたかが大事で、相手の危険なエリアでは持たせてもらえなかった。守備陣形を動かすロングパスなど、パスの質の違いも出さないと、怖さは与えられない。そういう状況を打開するための、効果的なミドルシュートも少なかった。

受け手の動き出しと、出し手のタイミングのズレもあったと思う。緩急をつけたり、ダイレクトで展開したりする場面があればよかったが、選手間でイメージが噛み合っていなかったように見える。1つ2つのプレーで光るものはあったが、3つ目4つ目の動きがなく、手詰まりとなった。それが後ろ向きのパスに直結していたと思う。4人くらいでイメージを共有しないと、いいアイデアは生まれない」

   確かにパスの中でもロングパスについては、サウジ67本に対し、日本は55本と下回った。シュートもサウジは8本中4本が枠内に飛んだが、日本は11本中同3本どまりだった。名良橋氏は試合内容を「消極的だった」としてこう話す。

「(4バックの)サウジアラビアが3バックに切り替えてきた。まず、そこへの対応力・修正力が足りなかったように見える。予想していなかった展開に対し、ピッチ上でどう対応するか、そのために誰がリーダーシップを取るかも、はっきりしなかった。

サッカーは相手ありきのスポーツ。森保一監督が約束事を示している中で、試合中に対応できる力を身につけないといけない。それがないと東京五輪のメダルも取れないだろう」

「唯一可能性を感じた」選手は...?

   今大会は東京五輪アジア最終予選を兼ねており、日本をのぞく上位3チームが五輪出場の切符を得る。日本は開催国枠での五輪出場が決まっているわけだが、今大会は本番までの数少ない真剣勝負の場となる。

「相手は本気モード。一方、日本は誰しも最終的な五輪メンバーに入りたい思いがある。そうした見えないプレッシャーがある中で、ミスを恐れて、大胆さが失われていた。セーフティなプレーを選びがちになってしまった」(名良橋氏)

   消極的なプレーの背景には、五輪代表の選考レースから振り落とされまいとする気持ちもあったかもしれない。ただ、その中でも気を吐いた選手が、今大会唯一の海外組でサウジ戦も同点ゴールを決めた食野だという。名良橋氏は「自分で何かやってやろうという積極性がプレーにも表れていた。気持ちを出してプレーしていたし、唯一可能性を感じた。思い切りの良さは他の選手に足りなかった部分だ」と評価する。

   今大会は4チーム×4組でGLを行い、各グループ上位2チームが決勝トーナメントに進出する。日本は12日にシリア戦、15日にカタール戦と、中2日ずつで2試合を残す。次戦の展望を名良橋氏はこう話した。

「スタメンはある程度入れ替えてくるだろう。チームコンセプトがある中で、自分の特徴をいかに出せるかが大事。森保監督も選手の特徴を見て代表に選んでいる。サウジアラビア戦は食野選手が気持ちを出していた。次は結果に加え、これは期待できると見ている者に感じさせるプレーを、すべての選手に見せてほしい。逆にこれが初戦で良かったのではないか。危機感をもってシリア戦に臨んでほしい」

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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