イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官(62)が米軍に殺害された報復としてイランが行ったミサイル攻撃では、米国側に死傷者は出ず「兵士全員は安全で、軍の拠点への損害は最小限だった」(トランプ大統領)。そこで注目されているのが、イランが発射したミサイルの能力だ。死傷者が出ないように狙って発射したのではないか、という見立てだ。
イランが攻撃に使用したとみられるミサイルは2種類。射程距離に大きな差があり、目標に届かずに落下したものもある。ミサイルの種類によって攻撃の正確度が大きく異なっていた可能性もある。
キアム型は射程距離が750~800キロ、ファテフ型は300キロ程度
イランによるミサイル攻撃は2020年1月7月夕方(米東部時間)に行われ、イラク中西部アンバル州にあるアサド空軍基地と、同国北部のクルド人自治区アルビルの基地の2か所に着弾した。このうち、着弾後のアサド空軍基地の衛星写真を米公共ラジオNPRがウェブサイトで報じている。衛星写真では、少なくとも5つの建物が被害を受けたように見える。NPRの記事では、ミドルベリー国際大学院の研究者が
「攻撃を受けた場所のいくつかは、(建物の)ど真ん中に命中したように見える」「今(被害を)集計している建物は、飛行機を駐機するための建物のように見える。基地には人間のためだけの建物をあるので、彼ら(イラン)は人よりも設備を狙って攻撃したのかもしれない」
などして、イランが意図的に人がいない場所を狙った可能性を指摘している。
NPRの記事では、イランが正確に目標を攻撃する能力を持っていることを示唆したともいえるが、必ずしもそうではないようだ。
軍事専門サイト「アーミー・テクノロジー」によると、今回の攻撃には、キアム(Qiam)1型とファテフ(Fateh)110型という2種類の短距離弾道ミサイルが使用された。同サイトによると、キアム型は射程距離が750~800キロで、ファテフ型が300キロ程度。ファテフ型の方が「国産の、さらに正確なミサイルシステムのひとつ」だと論評されている。過去にはイスラエルのスキー場への攻撃にも使用されたが、「鉄のドーム」と呼ばれる対空防衛システムで迎撃された、という経緯がある。シリアでの作戦で使用されているほか、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織・ヒズボラに輸出したりもしている。
不発弾見つかったのは「キアム」型
米国側は、イランは短距離弾道ミサイル16発を発射し、うち12発が着弾したとしている。残る4発は途中で落下したことになり、すくなくともその一つがキアム型だとみられる。イラク諮問評議会(IAC)のファハド・アラアルディン議長が、その残骸の写真をツイートしている残骸はアサド空軍基地から30キロ離れた場所で発見され、「爆発せず、地域に被害者は出なかった」という。
国際戦略研究所の英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)のマイケル・エレマン氏は、このツイートを引用しながら、写真に映っているのはキアム型だとの見方を示し、「弾頭は大気圏再突入前に機体から分離するので、爆発しなかったことに驚きはない」と指摘した。
これらの情報を総合すると、ファテフ型は比較的正確に目標に命中したのに対し、約2倍の射程距離があるキアム型には性能に難がある可能性もある。
この2種類のミサイル以外にも、ウクライナの旅客機がイランの首都テヘラン付近で墜落した事故では、イランが誤ってミサイルで撃墜した可能性が指摘されている(イラン側は否定)。イランのミサイル発射をめぐる能力が引き続きクローズアップされることになりそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)