カルロス・ゴーン前会長の〝逃亡劇〟が話題だが、日産自動車の経営では、上場大企業として考えられない首脳人事のドタバタ劇が演じられている。2019年12月1日に発足した新経営体制が立て直しをいよいよ本格化させる――と思っていたら、ナンバースリーの副最高執行責任者(副COO)に就いたばかりの関潤氏が退社するという、まさかの発表(12月25日)が待っていた。
しかも、モーター製造大手の日本電産に次期社長含みで移るという。これからの日産をリードするはずだった「トロイカ(3頭立ての馬車)体制」が1カ月も経たずに瓦解し、株式市場も失望して年末に年初来安値を更新する散々の年越しになった。
どうなる「現場と経営層との間の大きな隔たり」
新経営体制のナンバーワンである内田誠・社長兼最高経営責任者(CEO)が就任に合わせて12月2日に開いた記者会見には、ナンバーツーのアシュワニ・グプタCOOと関氏も登壇して、集団指導体制の結束を印象付けようと演出していた。その場で関氏は「現場と経営層との間の大きな隔たりを少しでも詰めるため、内田氏、グプタ氏と努力していく」と述べていたが、皮肉にも関氏の退社によって隔たりが更に拡大しかねない事態となった。
2018年11月にゴーン会長(当時)が東京地検特捜部に逮捕された際、それに次ぐポジションの社長兼CEOは西川広人氏だった。ゴーン被告を会長から解任した後にナンバーワンとなった西川氏も、自身の役員報酬問題のせいで19年9月に社長を辞任していた。この間、本業の自動車販売はブランドイメージの低下もあって不振に陥り、経営の立て直しが急務になっている。
新経営体制のメンバーを選んだのは、社長時代の西川氏がゴーン時代の反省を踏まえて、経営の透明性を高めるために導入した指名委員会だ。社外取締役を中心とした6人で構成され、委員長は社外取締役で経済産業省出身の豊田正和氏が務める。だが、指名委員会で実権を持つのは、日産取締役でルノー会長のスナール氏だということは衆目の一致するところだ。ルノーは日産の株式の約43%を持つ筆頭株主であり、スナール氏はルノーの利益を実現するために日産の取締役会と指名委員会のメンバーに入っていると言ってよいだろう。
権力構造が複雑に...
西川氏の後任選びを巡っては、日産生え抜きの関氏が最有力と目されていた。しかし、一転して内田氏が選ばれたのは「スナール氏の意向が働いた」という見方が強い。日商岩井(現・双日)から日産に中途入社した内田氏は、ルノーとの共同購買を担当した経験もあり、ルノーに比較的近い立場と目されている。日産とルノーにとって「扇の要」だったゴーン前会長が去った後、ルノーが日産に経営統合を迫って日産社内で反発が高まったこともあった。ルノーにとって収益面でも技術面でも不可欠な存在となった日産との良好な関係を維持するためにも、ルノーに融和的な人物が必要だったのだ。
ナンバースリーに甘んじることになった関氏は58歳。退社が発覚した後のロイターの取材に対して「日産のために働きたいが、サラリーマン人生の最後をCEOとしてチャレンジしたい」と答えている。こうした不満を見逃さなかったのが、日本電産の永守重信会長兼CEOだ。日本電産の現社長も日産出身だが、米中貿易摩擦の狭間で日本電産の業績が急落しており、社長を交代させようと考えていた永守氏は以前から接触していた関氏に声をかけたというわけだ。
日産は関氏に代わる取締役候補として、生産を統括する坂本秀行副社長を選び、2020年2月の臨時株主総会に内田氏と坂本氏を含む取締役選任案を諮る。当面、副COO職は空席になるという。内田氏は声明に「今後の新たな取り組みについては、CEOである私がリードし、COOのアシュワニ・グプタや新たに取締役となる坂本、他のエグゼクティブコミッティメンバーとともに進めていきます」と記し、社内外の不安払拭に心を配った。しかし、経営の透明性を高めようとしたあまり、むしろ権力構造が複雑になった日産で、内田氏が思うように改革を進められるかは見通せない。