米国のトランプ政権が、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官(62)を殺害したことを受け、イラン政府は2020年1月5日、欧米など6か国と15年に結んだ核合意を破り、保有するウランを無制限に濃縮する方針を発表した。
高濃縮ウランは核兵器への転用が可能だ。イランが強硬姿勢を強めたことで、米国による敵視政策が続く限り「朝鮮半島の非核化は永遠にありえない」とする北朝鮮の態度にも影響を与えそうだ。ただ、ソレイマニ司令官の殺害については、現時点での北朝鮮の対応はきわめて抑制的だ。新たな軍事挑発に向けたタイミングを探っている可能性もありそうだ。
国営メディア「新年の辞」ではなく「中央委員会第7期第5回総会」伝える
北朝鮮は朝鮮半島の非核化をめぐる対話の期限は19年末だと主張しており、19年12月3日、リ・テソン外務次官(米国担当)が朝鮮中央通信を通じて、
「クリスマスプレゼントに何を選ぶかは、完全に米国次第だ」
などとする声明を出していた。新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験の可能性などが指摘されたが、結局は特段の「クリスマスプレゼント」が確認されないまま年を越し、例年は1月1日に出される金正恩委員長による「新年の辞」も20年は出されないままだった。その代わりに20年1月1日の労働新聞を飾ったのは、朝鮮労働党の中央委員会第7期第5回総会の様子だ。19年12月28日から31日にかけて開かれたといい、金正恩氏は米国について「依然として敵対的行為と核の脅威・脅迫が増大している」とした上で、
「世界は遠からず朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新しい戦略兵器を目撃するだろう」
などと発言。核抑止力を維持したり、新兵器の開発を続けたりすることを繰り返し表明した。
「米国が対朝鮮敵視政策をあくまで追求するならば朝鮮半島の非核化は永遠にありえない」
「米国の対朝鮮敵視が撤回され、朝鮮半島に恒久的で、かつ揺るぎない平和体制が構築されるまで、国家の安全のための必須的かつ先決的な戦略兵器の開発を中断することなく引き続き力強く進めるであろう」
「米国の核の威嚇を制圧し、われわれの長期的な安全を保障できる強力な核抑止力の経常的動員態勢を堅持するであろう」
シリア空爆では米国非難、1週間後に新型弾道ミサイル発射
核やミサイルでの協力関係が取りざたされるなど、北朝鮮とイランとの関係は深いが、現時点では、北朝鮮はソレイマニ司令官殺害を直接批判することを避けている。
ソレイマニ司令官の殺害については、1月5月に朝鮮中央通信、翌6日に労働新聞が報じた記事で触れている。ただし、見出しは「国連憲章に違反した米国のミサイル攻撃を糾弾」。4日に中国の王毅国務委員兼外相とイランのザリフ外相が電話会談し、両外相が米国を非難することを伝える内容だ。ソレイマニ司令官殺害についても、
「去る3日未明、米国はイラクのバグダッド市にある、ある飛行場にミサイル攻撃を加えた。これによって現場にいた、イランイスラム革命防衛隊コッズ軍司令官とイラク民兵武力の高位指揮官らが死亡した」
として、具体的な名前を出さずに報じた。
米国が17年4月にシリアの軍事基地を空爆した際には、北朝鮮は国営メディアを通じて
「主権国家に対する明々白々とした侵略行為であって絶対に容認されない」
などと非難し、爆撃が北朝鮮への「警告」だとの見方があることについても、
「それに驚くわれわれではない」
と主張し、実際にその1週間ほど後に新型中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」型を発射している。
今後、北朝鮮では金正恩氏の誕生日(1月8日)、金正日総書記の誕生日(2月16日)、金日成主席の誕生日(4月15日)など、次々に重要な日程を迎える。こういったタイミングで、新型兵器の実験など新たな行動に踏み切る可能性もありそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)