日本が国際捕鯨委員会(IWC)脱退を受け、商業捕鯨を再開したのは2019年7月1日のことだった。
日本が商業捕鯨を再開するのは1988年以来、31年ぶり。歴史的な転換点とあって、前後には商業捕鯨再開を伝えるニュースが多数報じられるなどしたが、あれから約半年――あなたはこの間、鯨肉を何度食べる機会があっただろうか? 正直なところ、報道ほどのインパクトは感じられないというのが実情ではないか。
近所のスーパー6店を回った結果は...
12月のある日、J-CASTニュ-ス編集部記者は自宅周辺のスーパー6店を回り、鯨肉の取り扱いがあるか否かを調査。その結果、鯨肉の扱いがあったのは2店。さらに、その扱いも「クジラベーコン」があったというだけであり、生鮮食品としての鯨肉を扱っている店は皆無という状況だった。
もちろん、取り扱う店がないわけではない。別の都内在住の記者に聞いてみると、最寄りのスーパーでは比較的よく、刺身用の鯨肉を見かけるという。ただ、「商業捕鯨の再開以前から置いていたように思う。少なくとも、再開後に目立って品数が増えたり、お客が手に取っているのを見かけたりするようになった気はしない」。
鳴り物入りで再開された商業捕鯨の割には、何とも寂しい状況ではないだろうか。実際、ネット上ではツイッターを中心に、「そういや商業捕鯨解禁になったのにクジラ肉あまり見かけないな」といった声が散見されるのも事実だ。
さらに言えば、そもそもの国内での鯨肉の消費量自体が、近年では非常に低調。「スーパーに並ぶほどの需要があるのか怪しい」ことも、鯨肉がなかなか広がりを見せないことの一因だろう。水産庁が公開する「鯨肉消費の推移」(https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-38.pdf)によると、最盛期となる1962年度は23万3000トンを超えていたが、2017年の消費量はわずか3000トンと、その消費量が最盛期の1%台にとどまっている。
そんな中で始まった「令和の商業捕鯨」。今回の再開で、鯨肉をめぐる状況は変わったのだろうか。
捕鯨行う会社に聞いてみた
1988年から2019年まで行われていた調査捕鯨の時から日本国内の鯨肉の流通に携わってきた「共同船舶株式会社」に、J-CASTニュ-ス編集部は取材を実施した。
最初に、商業捕鯨が再開されたがスーパーで鯨肉は見かけないように思えてしまう点について聞いてみると、
「まず、我が国における捕鯨は『母船式捕鯨業』と『小型捕鯨業』に分けられます。私たち共同船舶は母船式捕鯨を行う日本で唯一の会社です。当社の今年の操業において、母船式捕鯨を行う日新丸船団は約1430トンの製品を水揚げしました。7月末に仙台港で水揚げした分の製品については、一部スーパーで『商業捕鯨初物』としてお刺身用赤肉などが販売されております。10月の操業終了時に下関港で水揚げした製品については、12月より本格的な流通が始まりました」
と、本格的な流通が今まさに進んでいると説明する。
次に、「商業捕鯨再開で鯨肉の流通量が増えれば、鯨肉の価格が下がるのではないか」との期待がネット上の一部に見受けられるが、それについて聞いてみると、
「スーパーなど市場での価格は私どもで管轄できる範疇にないのですが、商業捕鯨が始まったばかりということもあり、まだ価格に大きな変化はないと考えています。今後は高品質な製品をよりお求めやすい価格で消費者の皆様にお届けできるように、会社をあげて取り組んでまいります」
との姿勢を示した。また、商業捕鯨では調査捕鯨と違い、船上での血抜きが可能なため、臭みが少ない肉になると言われているが、これについては、
「確かに血抜きもありますが、今回捕獲したニタリクジラは魚ではなくオキアミを食していることから臭みがほとんどなく、また、脂のりの良いものとなっています。仙台市中央卸売市場での試食提供及びセリ、OSAKAくじらフェス2019の品見会ではそれぞれ流通・飲食関係者から弊社製品への高い評価をいただきました」
と自信を見せた。
鯨肉のお店に聞くと...〇〇のお客が多い!?
現時点での鯨肉の流通状況などについてはもちろん、船上での血抜きができることで味が良くなることも教えてくれた共同船舶の広報担当者。それを知ったJ-CASTニュース記者は、消費者のすぐ近くで働く関係者の言葉も聞きたくなった。それも、鯨肉の味に人一倍敏感な関係者に。
そこで、J-CASTニュース編集部は、東京・築地場外市場で営業している鯨肉の販売店「鯨の登美粋」に取材を実施。代表を務める松本宏一さんが商業捕鯨再開後の店や客の変化について語ってくれた。
取材を行った12月下旬時点で店に置かれている商品のほとんどは、すでに商業捕鯨によって得られた鯨肉に置き換わっていると明かす松本さん。その価格について、クジラの皮とそれに付随する脂肪分である「本皮」をはじめとする「白手物」という部位については、調査捕鯨時代よりも価格が下がっていると説明してくれた。加えて、捕鯨船上での血抜きができるようなったことなども含め、商業捕鯨再開後の鯨肉の味について、
「格段に美味しくなっているので、量販店、飲食店でも扱いやすいものになってきていると思います」
と太鼓判を押した。また、商業捕鯨再開に伴い出せる部位が増えたかについて聞いてみると、「そこについては特に変わりはありません」とのことだった。
J-CASTニュース編集部が取材に訪れた当日は、年の瀬ということもあって「鯨の登美粋」をはじめ、築地場外市場は買い物客でごった返していたが、その中には外国人らしき人々の姿も。そこで、どの国の人が多いか聞いてみると、実際に数えたわけではなく、あくまで体感としつつ、
「意外に思われるかもしれませんが、『反捕鯨国』と位置付けられているアメリカとオーストラリアの方が1位、2位を争う感じです。そこから大きく離れて3位に中国の方という感じですかね」
と明かしてくれた。また、日本人の来店者については、
「商業捕鯨再開後は『再開されたね』『頑張ってね』といった温かい声を頂く機会が増えたように感じます」
と、その声に応えていきたいとニッコリ。少しでも鯨肉の流通に貢献できればと話す松本さんの表情は実に明るいものだった。
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)