大都市圏の路線を中心にホームドアの普及が進んでいる。ホームドアの普及は大いに賛成だが、一つ気になることがある。乗客を車内に押し込むなどの仕事を担う駅臨時係員、いわゆる「押し屋」との共存問題だ。
筆者の体験談も合わせて、「押し屋」の必要性を考えてみたい。
どんどん増えるホームドア
ホームドアとは鉄道駅のプラットホーム端にあるドア付きの仕切りのことを指す。以前から新幹線や「ゆりかもめ」などの新交通システム、東京メトロ南北線をはじめとする平成以降に開業した地下鉄で採用されてきた。ここ数年は、大都市圏を中心にJRや大手私鉄会社でもホームドアの導入が進んでいる。なお、「ホーム柵」という名称もあるが、この記事では便宜的に「ホームドア」で統一したい。
ホームドアにも様々な種類があるが、列車の扉の動きに連動してドアが作動することに変わりはない。列車のドア位置によってドアが動くホームドアも開発されている。今後もホームドアの普及は進むだろう。
一方、ホームドアがあると駅臨時係員「押し屋」は不要なのでは、そのような考えがふと頭に思い浮かんだ。なぜなら、ホームドア外に「押し屋」が取り残される危険があるため、列車のドアに近づくことが難しくなると考えたからだ。
「押す」だけが仕事じゃない
そこで、筆者はホームドアがある関西の某主要駅を訪れた。そこでは休日の昼間に関わらずアルバイトの駅臨時係員「押し屋」が仕事をしていた。「押し屋」は列車のドアには触れず、ホームドアの外で乗降を確認後、発車合図のために右手を上げていた。
筆者も数年前まで関西の某駅で朝夕ラッシュ時に学生アルバイトとして「押し屋」をしていた。それだけに、ホームドアと「押し屋」が共存するシーンを見てホッとした。
「押し屋」という名称から駅臨時係員は乗客を「押す」以外に仕事はないと思うかもしれない。ところが、利用客に対するご案内、体の不自由な方へのサポート、駅構内の清掃など、「押す」以外にも細かな仕事はたくさんある。列車発車後の指差確認で落とし物を見つけたことも。イベント開催時には故意に線路上に降りた泥酔客を駅員と協力してホームに引き上げる「事件」もあった。このようにホームドアが設置されても、機械では対応できない問題を解決する「押し屋」への需要は消滅しないと思う。
自動化が進んでも、鉄路の安全はあくまでも人間が守る――このような思いを「押し屋」の背中を見て再認識した。
(フリーライター 新田浩之)