「(アジア諸国へは)よく説明し、理解を求める必要がある。理解は得られると思う」
メモに残された政治家の声は、こんな具合だ。靖国懇の報告書が出た8月9日の日付が入った「橋本龍太郎 サシ(編注:サシ=一対一での取材の意だと思われる)」と書かれたメモでは、
「問題は靖国問題に伴う、さまざまな意見の対立を整理してしまったことによって、公式参拝賛成、反対の先鋭化のいずれをも起こしてしまったことにある。あの問題は法理論でやってはダメだ」
として、有識者懇談会という方法論自体を批判している。メモでは橋本氏について「みんなで靖国に参拝する国会議員の会、幹事長」の注記がある。その発言からは、神道形式での参拝を避けたことへの反発がにじむ。
「一種の国民感情なのだから。首相が参拝の所作を一歩一歩(公式化に向け)すすめ自民党としても、それに対応する。その積み重ねが一つの重みをもつ。(そうすれば少なくとも右翼は敵に回さなくてすむ)。そういう危ぐは、官邸に、あの審議会を作る前に申し上げておいたが、私らにすれば『言ったことか』ということだ」
8月14日には、懇談会の報告を踏まえて藤波氏が中曽根氏による公式参拝方針を発表。近隣諸国に説明した上で、86年以降も公式参拝を続ける意向だったことが分かる。例えば「8/14夜 安倍こん」のメモ。安倍晋太郎外相による懇談内容だとみられ、曰く「(アジア諸国へは)よく説明し、理解を求める必要がある。理解は得られると思う」。山崎拓官房副長官を念頭に置いたとみられる「山拓 懇談(各社)」のメモでは、
「今回の長官の談話は、公式参拝を今年限りのものにするんじゃなく、来年以降のやり方にも一定の方向付けをするものだ」
とある。