「もう過労死寸前です」――。そう言ってコンビニエンスストアの24時間営業に一石を投じ、自主的に時短営業をしていた大阪府東大阪市の加盟店オーナーに対して、セブン-イレブン・ジャパンは2019年12月31日付でフランチャイズ契約を解除する。
東大阪南上小阪店のオーナー、松本実敏さん(58)が29日午後に大阪市の同社の本部事務所を訪れ、最終通告を受けたと明かした。同社は店へのクレームが多いこと、またツイッターなどを通じて本部への中傷を繰り返してやめなかったことを理由にしている。本部の「年中無休の原則」に反し、松本さんが2020年1月1日を休業にすると表明していたこともある。
コンビニ加盟店、「家族経営」が一般的
セブン-イレブンの加盟店オーナー、松本実敏さんは今年2月に自主的に時短営業を始めた。2018年5月に妻をガンで亡くしたことで、実質的に一人で店を回すことになり、店舗運営に限界を感じたことがきっかけとされる。
これに対し、セブン-イレブン・ジャパンは「特別な合意」があるケースを除き、24時間営業が原則として、松本さんの時短営業の申し出を認めなかった。本部から「24時間に戻さないと契約を解除する」と通告され、応じない場合には違約金として約1700万円を請求されて強制的に解約されるという。
ウェブメディア「弁護士ドットコム」の報道をきっかけに問題は一気に全国区となり、業界のみならず、日本社会全体に波紋を広げる起点となった。
いまやコンビニの人手不足は日常的で、かつ最低賃金の上昇でコストアップしている。地方都市を中心に、加盟店の多くは家族経営が一般的で、松本さんのようなケースは、どの加盟店オーナーでも起こりうる。
過重労働を強いられるうえ、営業時間を決める自由がオーナーにないことが明るみになり、政府が旗を振る「働き方改革」に逆行すると、セブン-イレブン本部の対応が問題視された。
松本さんへの契約解除は、本部が12月20日に改めて通告。12月29日午後、双方の弁護士を伴い協議したが、本部は松本さんの営業の継続希望を受け入れなかった。松本さんは、地位確認などを求め、法的措置を検討。店の明け渡しを拒否するとともに、独自に営業を続けるという。
24時間営業や休日、店側の一律対応を見直し
そもそも、コンビニ店が飽和状態になりつつあることは、2017年から指摘されていた。東レ経営研究所のチーフアナリスト(産業調査担当)、永井知美氏は「コンビニ業界の現状と課題 ~業界再編で寡占化進展、国内5 万店時代をどう乗り切るか~」(17年7月)で、
「コンビニは百貨店の衰退、スーパーの伸び悩みを尻目に成長を続けてきたが、店舗数が飽和点とされた5万店をはるかに上回る約5.5万店に達して、既存店売上高の伸び率は勢いを失っている」
と指摘していた。
コンビニは、セブン-イレブン・ジャパンとファミリーマート、ローソンの3社で、国内シェアの9割を占める寡占状態だ。それにもかかわらず、セブン-イレブンの国内店舗数は、2017年までの過去5年で約5000店も増えている。
「都内などは、同じコンビニ同士でお客の奪い合いが起こっているエリアもある」(業界関係者)との声もあり、仮に人手があったとしても利益がとれない店舗も出ているという。
そうしたなか、経済産業省が設置した「新たなコンビニのあり方検討会」が12月23日、報告書の骨子を公表。24時間営業や休日について、店側に一律に対応させることを見直し、店の事情に応じて柔軟に認めるよう、コンビニ各社に促した。
これに対して、ローソンが人手不足への対応や働き方改革の一環として、大みそかから1月2日にかけて、オフィス街などを中心に合わせて102店舗で休業する実証実験を行う。セブン-イレブン・ジャパンも、元日を中心に首都圏のおよそ50の直営店で休業することを明らかにしている。
一方、同じセブン&アイ・ホールディングス傘下のスーパー、イトーヨーカドーとヨークマートも約50か店で初めて元日を休業。ただ、高島屋や大丸などの百貨店が元日休業とするなか、西武・そごうは1日から初売りする。そごうに勤める従業員は、「(元日営業について)他社は閉めているので、多くの来店客が見込めるとの話が店長からあった」と話している。
「働き方改革」への意識が薄いのは、親会社であるセブン&アイHDなのかもしれない。