日産自動車前社長のカルロス・ゴーン被告が、日本から「逃亡」―― 年の瀬に飛び込んできたニュースに、国内外が騒然となっている。
報道を総合すると、ゴーン被告はプライベートジェットで29日夜、レバノンの首都ベイルートに到着した。米国の広報担当者を通じて声明を発表しており、日本の司法制度を「基本的人権が無視」された差別的なものであるなどと主張。自らは逃亡したのではなく、「不正義と政治的迫害を回避」したと訴えている。
レバノンでは国民的人気者
レバノンはゴーン被告の祖父の出身地で、国籍も有している(ほか出身地のブラジル、フランス国籍を持つ)。幼少期にも一時居住経験があり、ビジネス界で成功したのちには地元への投資や寄付にも力を注いだ。そのため、現地では郵便切手にも採用されるなど尊敬を集めており、逮捕後もさまざまな支援を受けてきた。「大統領に」との声さえあると報じられているほどだ。
犯罪容疑者が国外に渡ってしまった場合、逃亡先の国との間に犯罪人引き渡し条約があれば、一部の例外などを除き、その引き渡しが相互に義務付けられることになる。しかし、日本が条約を結んでいるのは米国と韓国の2か国のみだ。条約がない場合は、外交ルートを通じて引き渡し請求を行い、相手国が判断することとなる。
とはいえ、法務省の「犯罪白書」(令和元年版)によれば、引き渡しが実現したケースは年に多くて数件程度で、過去30年では合計37件に留まる。
レバノンの場合では、過去にイスラエル・テルアビブ空港乱射事件を起こした日本赤軍メンバー・岡本公三受刑者の送還を日本側が求めたものの、国民の反イスラエル感情に配慮してこれを拒否。現在まで岡本受刑者はレバノンに暮らす。
「保釈を出した東京地裁の歴史的大チョンボ」
前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は31日、ツイッターで、「レバノンと日本の間には、身柄引き渡し条約がないので、レバノン政府が拒否すれば、日本はゴーンを取り返せない」と指摘するとともに、「ゴーンは、フランス、ブラジル、レバノンと複数のパスポートを持っているが、三重国籍の利点をフルに活用。日本の司法は、もっと国際化しなければ、こういう事態には対処できない」と、司法制度の改革を呼び掛けた。
元検事の落合洋司弁護士もツイッターで、
「カルロス・ゴーンはレバノン国籍もあるはずで、日本とレバノンの間には犯罪人引渡条約がない。自国民は引き渡さないのが国際法上の原則。レバノンを拠点にする限り、日本への連れ戻しは無理だろう」
とゴーン被告引き渡しの難しさを解説するとともに、「保釈を出した東京地裁の歴史的大チョンボ」と断じた。