2019年も押し迫る12月下旬。J-CASTニュース編集部記者は都内にある某事務所を訪ねた。待つことしばし。応接室に現れたのは、「AVの帝王」として名高い村西とおる監督(71)だ。
J-CASTニュース編集部では、今年一年のネットを盛り上げ、熱く「燃えた」人物を表彰する「炎上アワード」を2018年から開催。2019年の受賞者の一人として、村西さんを選出した。「毀誉褒貶を顧みず、何物も恐れず走り続けてきたその生き様」、そしてネット配信されたドラマ「全裸監督」の大反響がその授賞理由だ。この日は表彰状・トロフィーを手渡すとともに、インタビューを行うべく、村西さんの元を訪問したのである。
ビニ本をトラックに積んだ時点から尾行されていた!
表彰式が終わって始まったインタビューで村西さんは開口一番、次のように語ったのだった。
「よく、『賞罰なし』と申しますけども、私は罰こそ多かれど、賞には丸っきり縁がなく、賞を頂いたのは本当に生まれて初めてです。感動でございます。まさにエクスタシーです。日本で6回、アメリカで1回の計7回逮捕された身としては身に余る光栄であります」
と、自らの逮捕歴を交えつつ、受賞の喜びを語った村西さん。村西さんといえば、「前科7犯」「懲役370年」「借金50億円」といった、実に刺激的な数字と共に語られることが多い人物であるが、そんな村西さんの半生を描いた「全裸監督」が、今年大きな反響を呼び起こしたことは記憶に新しい。同作の舞台は1980年代で、作品中では村西さんがあの手この手を使って検問をはじめとする警察の摘発を免れるシーンがあるが、それについて聞いてみると、
「当時はね、本当に、いつも警察に尾行されていたんですよ。ビニ本(※注・ビニール本:書店で中身を見られることがないように透明なビニールで包装された成人雑誌)を印刷所でトラックに積んだ時点からです。で、何とかそれを巻いて、公園の近くの路上などで別の車に積み替える。まあ、今の世の中では皆さんスマホを持っていますから、何だかんだで足がついてしまいますが、当時はそのような文明の利器はなかったですからね......昔懐かしい話ですよ」
と、昭和の香りあふれる当時を振り返った。続けて村西さんは、
「私は文字通り、恥ずかしきことのみ、多かりし身ですからね。『前科7犯』『懲役370年』『借金50億円』なんて奴いないでしょ、そんな人あなたさまの周りに。でも、この『おぞましさ』こそが、私の商品価値なのです。特に、ハワイでFBIで逮捕された際に求刑された『懲役370年』ですが、こんなのは、はっきり言って死んだほうがまし。ついうっかり死刑囚に憧れてしまいましたよ。なぜなら、『懲役370年』というのは、仮に4回寿命を全うしたとしても、まだ、日本には帰れないのですから」
※村西さんは1986年、米国・ハワイでの撮影の際にFBIに逮捕され、裁判で懲役370年を求刑されるも、司法取引が成立したため、無事、日本に帰国することができた。
実に刺激的なトーク回しの村西さん。これらの伝説は40代以上の人々にとっては、まさに、リアルタイムで見聞きしたことだろうが、20代、30代の人からすると、「テレビの村西とおる特集で見た」「又聞きで聞いたことがある」か、もしくは、「聞いたことがない」というのが正直なところだろう。
ただ、そのような世代にも、今年公開された「全裸監督」を見て、村西さんの半生を知った人は多いはずだ。そこで、同作品から若い人に何を感じてほしいかを村西さんに聞いてみた。
「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ。俺がいる」
「若い方には、『挑戦は愚か者がすることだ』と思っている方が多いように感じます。であるがゆえに、今の日本は閉塞感に満ちています。ただ、日本社会自体も悪いんですよ。何せ、1回でも失敗したら、一般的な道を外れて生きていかなければならない社会ですからね。でも、アメリカのシリコンバレーでは、『挑戦すること自体が価値』『挑戦しないことはデメリット』という発想が横溢していますからね。ダイナミズムがありますよ。翻って、閉塞感が強い日本で暮らしている若い方には、是非、現在公開中の私のドキュメンタリー映画『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』を見ていただくことで私みたいな者の存在を知り、そこから何かしらのヒントを得ていただければと思います」
ただ、挑戦には失敗が付き物なのは周知の事実。しかし、村西さんにしてみれば、失敗を恐れること自体が実に愚かなことだという。
「人生なんて、その全時間の99%は失敗の連続です。うまくいっている時なんてのはほんの1%ぐらいの時間です。やれどもやれども失敗の連続。当然、途方に暮れてしまいます。そんな時、力になるのは、決してIT長者のサクセスストーリーなどではありません。あんなのは宝くじの1等賞に当たるようなもので、全く参考になりません。では、どうすれば良いか? それは、『とんでもない人生を歩んでいる人』がいることに気付けば良いのです。そう、考えてみてください。例えば自分が病気になった際に、『もっとひどい病気で苦しんでいる人だっている』と。さらに考えてみてください。自分が1000万円の借金を背負って絶望の淵にいる時に、ふと横を見てみると、『借金50億円を背負った男がパンツ一丁でAVを撮影している』と。どうでしょう? そうすれば、『あんなオヤジに比べれば、俺の方がまだまだマシだ』と、元気をもらえるでしょ。そうです。映画のポスターにも書きましたが、『人生、死んでしまいたいときには下を見ろ。俺がいる』と。つまり、私の存在意義は、『絶望の中にある人が村西とおるという人間の存在を知ることによって奮起できる』というものだと思うのです。この、私のドキュメンタリー映画をご覧いただいて、感じることは人によって違うとは思いますが、それでも、あの作品を見ていただければ、『世の中にはこんなに愚かな奴がいるのか!』という驚きがあるでしょう。そこから先、どのように感じていただくかはそれぞれでしょうけどね」
何だか、聞いている記者本人のテンションが上がってきた。併せて村西さんは、「限界」などというものはあくまで主観的なものであり、得てして、人間は自らを「悲劇の主人公」として認識しがちであるがゆえに、何事に対してもポジティブな考えを持ち続けるべきだと説いたのだった。
なお、2019年は8月に「全裸監督」が公開されたが、11月には映画「M 村西とおる狂熱の日々」が公開された。同作は村西さんが借金50億円を背負ったあと、それを返済すべく撮影に奮闘する1996年の姿を描いたものだというが、今後、村西さんの2000年代の姿が描かれる可能性はあるのだろうか。
「もちろん、あります。私の所業はとかく『前代未聞』という四字熟語と共に語られることが多いわけですが、『こんな人間がいたのか!』という驚きを、自らの命尽きるまで世の中にお伝えしてきたいと思っていますからね。まあ、私のような人間が存在しているその理由とは、やはり、世の人々に『生きるエネルギー』や『情熱』をお届けすることだと思うのです」
あと少し遅ければ...「孫正義さんどころではなかった」?
さて、ある程度話が進んだところで、その「借金50億円」の原因について聞いてみた。
「原因は主に衛星放送事業の失敗によるものです。当時はインターネットがなかったので、全世界に情報発信しようとなると、近道としては衛星放送だったんです。で、その衛星に向けて電波を発信する地球局を購入するのに約20億円かかりました。さらに、毎月の電波料が2億5000万円。しかし、事業は軌道に乗らず、赤字も含めて借金はあれよあれよという間に50億円に膨らんでしまったのです。今でこそ気軽に全世界に向けて情報発信できる世の中になりましたが、今を遡ること27年前から、私は全世界に向けて情報発信を行っていたのです。先見の明があるでしょ。ただ、早すぎたのか、事業は倒れてしまいました。もし、この事業をもう少し遅く思いついていたら......それこそ、今でいうところの孫正義さんどころではなかったでしょう(笑)」
当時、最新の情報発信方法だった衛星放送。その後の情報発信方法は衛星放送よりもインターネットに移行していった。そんな世の中となった2019年に放たれたのが、まさしく「全裸監督」(Netflix)だったわけだ。
「Netflixの年間の全製作費は報道でもある通り、2018年は1.4兆円、2019年は1.6兆円です。ほかにも、プロモーション費用などを合わせると、毎年2兆円前後の資金を投じて全世界へ向けて情報発信を行っているのです。同社はアメリカの会社ですが、翻って日本を見てみると、この規模の資金を使って世界を目指したスキームを組み立てられる人間がまだいないのが実に残念なところです。2兆円というのは非常に大きな額に思えますが、それでも全世界に向けて情報発信ができるのですから安いものです。先程お話しした通り、私が以前行っていた衛星放送事業では、日本国内のみへの発信だったにもかかわらず、その電波料は『1カ月2億5000万円』。高いんですよ! それに比べたら、今の世の中は夢のような状況なのです。まさに、私にとってネット上での世界配信の第一歩が、『全裸監督』の公開だったのです」
ちなみに世界配信の結果、特に好評だったのがインドで、また、Netflixが配信を行っていない中国でも裏配信で多数の視聴者がいるといい、また、海賊版のDVDが出ていると明かしてくれたのだった。併せて、村西さんは、
「翻って日本ですが、ネット配信においてはガラパゴスなコンプライアンスの自縄自縛に陥っています。萎縮しちゃってる。そんな状況を、『全裸監督』を見ることによって、世界に向けて勝負を仕掛けるヒントを得てほしいと思います。そのような突破力があるのは、今のところアダルトビデオ業界だけです。実は、日本のアダルトビデオ業界は世界から『聖地』と言われています。というか、もはや『性地』です。そのような世界に冠たるステータスを獲得しているアダルトビデオ業界の人間からすると、日本のほかのネット配信業界に対して『私の後に続け!』と、ゲキを飛ばさずにはいられないのでございます!」
と、叱咤激励の言葉を放ったのだった。
5年後10年後なんてどうでもいい
さらに、村西さんの論調は熱を帯びていく。
「よく、会議などで『そのスキームの持続性はどうなの?』などと申す者がおりますが、実に野暮ったい。5年後10年後なんてどうでもいい。『来月どうするか?』です。もっと言ってしまえば、『1週間後』ないし、『今日どうするか?』です。世の人々はすぐに『そのビジネススキームは短すぎない?』とか言いますが、そんなのダメ! 全ての商品には流行り廃りが必ずあるのですから、例えその商品が市場を席巻する期間が短くても、その時代、その時代で流行りの商品を売らなければなりません。自転車が最新の商品だった時代は自転車を、バイクの時代はバイクを、自動車の時代は自動車を、電気自動車の時代は電気自動車を売るのです。机上の空論でなく、今、ナンバーワンになれということです。それを続けていれば、『空を飛ぶ車』が売り出される時代になってもナンバーワンになれるのです。今、チャンピオンになれば次が見えてくるのです。ジェイサットニュースさまも(※注・J-CASTニュースの言い間違い)うかうかしてられませんよっ!」
最後はJ-CASTニュースへの叱咤激励も飛び出した炎上アワードの授賞式。村西さんの体から放たれるその「炎」に終始圧倒された記者だったが、インタビュー終了後には、ふと、その体に不思議な力がみなぎっていることに気付いたのだった。
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)