近代化遺産の価値はどこに?
しかしこのYS-11は、量産1号機で日本機械学会や日本航空協会の各遺産認定を受け、国立科学博物館が年4回の点検を継続して行い、エンジン・計器は稼働可能な状態の稀有な機体だった。ザ・ヒロサワ・シティでは専用の展示施設が建てられる計画だが機器は稼働しない、静態保存での展示となることから、残念だという航空ファンの感想も生じた。機体について鈴木氏は
「油圧や配線などは解体前の状態に戻しませんが、その状況を記録して元の状態に戻せるようにしてあるので、YS-11量産初号機の価値を維持すると考えています。また今回の解体により、量産初号機ゆえの製造時の苦労などによる技術的痕跡も見つかっており、そうした情報や保存してきた映像などで当該機の価値をよりわかりやすく伝えることができると考えています」
と説明し、動態でなくとも記録などでYS-11の保存価値は保たれるとした。ザ・ヒロサワ・シティは既に鉄道車両や自動車の保存展示の実績があり、国立科学博物館はザ・ヒロサワ・シティと連携・協力して機体を保存し、また展示公開を行っていくという。
当初は羽田で保存展示の構想がありながらも、退役から約20年もの間非公開で、地方の民間施設での静態保存が決まったYS-11量産1号機。しかし現状では、官民連携の文化財活用の事例としても、ザ・ヒロサワ・シティでの保存・展示がベストだと鈴木氏は取材に答えた。
飛行機のような大きな近代化遺産はもとより収集・保存が難しいというハードルがあるが、これまでにもYS-11のメンテナンス時に蓄積されたデータ等は産業遺産保存に活用されている。鈴木氏によれば機体のみならず設計時の輸送機設計研究会資料・風洞実験模型・飛行検査器具などの周辺資料の収集保存もまた本機の意義を伝えるために必要なことだそうだ。
現役当時そのままの状態を保つのは困難にしても、研究と資料の保存によって総合的に近代化遺産の価値は保たれるべきもので、機体など「モノ」の状態がどうあるべきかはケースバイケースである、というのが、重厚長大な近代化遺産の保存において、折衷的な解決策だろう。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)