3ジャッジの採点が割れたのは3ラウンドだけ
この試合はスリリングかつ、両者クリーンなボクシングを展開した。これが世界的な評価をもたらしたのではないだろうか。試合の中で明確なクリンチがみられたのは、9回に井上がぐらついた後にクリンチにいったものだけ。ドネアにいたっては、11回のダウン後に井上に少し寄りかかる仕草を見せただけで、クリンチは一度もなかった。世界最高峰の技術を持つ2人のボクサーが真っ向から勝負した結果が、名勝負を生んだのだろう。
ラウンドによって主導権が行きかう分かり易い展開は、ボクシングの専門家だけではなく、世界のボクシングファンの心をつかんだ。この試合を採点した3人のジャッジが共通して同じ点数をつけたのは12ラウンド中8ラウンドあった。ひとりのジャッジが5回にドネアを8点としたため横並びとならなかったが、3人いずれも井上を支持。採点が割れたのはわずかに3ラウンドのみで、7ラウンドから12ラウンドまでは3人すべてが同じ点数だった。
この一戦で井上の世界的な評価はさらに上昇した一方で、負けたドネアも改めて高い評価を受けた。ダウンをしてKOのピンチを招いてもなおクリンチという手段を択ばなかったフィリピンのレジェンド。そしてレジェンドの魂をリスペクトするように最後までKOを狙いにいった「モンスター」。井上、ドネアの両雄が、ボクシング界の歴史に新たな1ページを刻んだ。