サッカーJ1・サンフレッチェ広島が来シーズン着用する新しいアウェーユニフォームのデザインに、インターネット上で反発の声が殺到している。クラブを象徴するカラーである「紫」を排し、ライバルクラブをイメージさせる「赤」を使用したのが最大の要因だ。ツイッターでは「#紫を取り戻せ」のハッシュタグも作られ、サポーターの疑問や怒りがやまない。
サプライヤーのナイキジャパン(本社・東京都港区)は、赤を選んだ1つの理由としてプロ野球・広島東洋カープのチームカラーにインスパイアされたとしており、クラブの説明もこれを踏襲している。J-CASTニュースの取材にサンフレッチェ広島は、「セカンド(アウェー)のユニフォームカラーは今までも、それほど『紫』にこだわってこなかった」とし、これほどの反発は「想定外の反応」だったと話す。「赤」の意図を詳しく聞いた。
「ナイキと各クラブの理念が反映されています」
ナイキジャパンは2019年12月23日、J1でユニフォームを提供している鹿島アントラーズ、浦和レッズ、広島が20年シーズンに着用するアウェーユニフォームデザインを発表。赤色のトーンは若干違うが、シャツとソックスは白地、襟元は赤、パンツは赤という組み合わせは共通している。「3クラブ史上初の統一テーマの新アウェイユニフォーム」という。
背景にあるのは東京五輪で、「スポーツの魅力や楽しさ、感動、そして、幸せや平和の実現をフットボールを通じて目指すというナイキと各クラブの理念が反映されています」と説明。赤白というカラーリングは日本の国旗がベースとなっており、
「浦和レッズはクラブカラーのスポーツレッド、鹿島アントラーズはクラブカラーのディープレッド、サンフレッチェ広島はホームタウンが同じプロ野球チームである広島東洋カープの赤からインスパイアされたサルサレッドを採用しています」
と3クラブそれぞれの赤色の意味も明かしている。
サンフレッチェ広島も同日リリースを出した。デザインの背景はナイキジャパンと同様の説明をし、「2020年シーズンに向け、選手たちはホワイトとレッドのアウェイユニフォームで、日本の誇りを胸に新シーズンを戦います」と意気込みを伝えた。
だが、その評判は決して芳しいものではなかった。発表直後からツイッターでは、
「チームカラーが紫のサンフレッチェが何故赤色なの カープはカープ ユニホームは個性を主張する大事なアイテムだろ」
「オリンピックのために、わざわざ鹿島や浦和とセカンドユニを統一する意味が分からない」
「数多あるサッカーチームの中でひとつのクラブを愛する理由は何か?広島県にあるから?紫色が珍しいから?サンフレッチェという名だから?それぞれは小さなことでも、束なって大きな理由になりうる。だからそれを疎かにすることはアイデンティティを揺るがすことになる」
「サンフレッチェとカープを一緒にする意味がよくわからない。サンフレッチェの誇りとかアイデンティティ無視してません? チームカラー大事にしないと...」
といった反発や疑問が相次いだ。
クラブにはメールで約600件の問い合わせ
「#紫を取り戻せ」のハッシュタグも作られ、多くのユーザーが声をあげている。23日にはツイッターで盛り上がっているワードを指す「トレンド」に「サンフレッチェ」が入るほどの勢い。クラブ公式アカウントが発表をシェアした投稿には450件以上のリプライが届いており、多くが批判とともに撤回を求めている。サプライヤーのナイキに対しても、「ナイキはホンマ手抜いたな。ユニフォームに」「ナイキの怠慢。クラブカラーをなんだと思っていやがる」といった声があがっている。
ナイキの発表にあるとおり、3クラブのカラーは浦和と鹿島が「赤」であるのに対し、広島だけは「紫」だ。さらに、赤を使う説明としてホームタウンを同じくする「広島カープ」を引き合いに出したことが重なり、クラブとしての「アイデンティティ」を問う声もあがる事態となったようだ。
さらに言えば、浦和と広島は「因縁」めいたものがある。広島で育った選手が毎年のように浦和に移籍していく時期が主に10年代前半にあり、ネット上では「サンフレッズ浦島」などと揶揄された。それもGK西川周作、MF柏木陽介、DF森脇良太、DF槙野智章(海外移籍を挟む)、FW李忠成(同)など日本代表クラスの選手が多かったため、両クラブに限らず、広くJリーグファンの間で議論が交わされた。今回のアウェーユニのカラーについてもネット上では「なんか昔浦和にやたらめったら選手引き抜かれてたの思い出して頭痛くなったわ笑」といった声がある。
嘆きの声はクラブ側にも伝わっている。サンフレッチェ広島の広報担当者は24日、J-CASTニュースの取材に応じ、すでに電話で数十件、メールでは約600件の問い合わせが来ていると明かす。多くはカープと同じ色への反発、ライバルクラブの浦和や鹿島などと同じ色への反発、そして「紫は捨てたのか?」という怒り。担当者は「頂いたご意見は真摯に受け止めます」としつつ、
「セカンド(アウェー)のユニフォームカラーは今までもさまざまな挑戦をしており、それほど『紫』にこだわってこなかったのは事実です」
と話す。
「温度差はあったと思います」
確かに広島の歴代アウェーユニは、特にサプライヤーがナイキになった11年以降、紫以外の色を使ったものが散見される。過去にはオレンジや蛍光イエローといった特徴的な色もあった。
「ナイキさんからこういう色はどうですかと相談を受け、クラブがそれに承諾して決めてきました。今回もその流れを踏襲しています。
ナイキさんは東京五輪で日本の公式スポンサーではありませんが、その中で五輪をどう盛り上げていけるかという戦略の1つが今回のユニフォームです。ナイキが提供する3クラブ(広島、鹿島、浦和)のアウェーユニフォームは日の丸を意識した色使いで統一し、五輪を盛り上げたいと提案を受けました。クラブもセカンドについては紫にこだわらず、いろいろなチャレンジをしてきました。だから『やりましょう』と合意しました」(前出の広報担当者)
今回の赤への反発は「想定外の反応」だった。先にあげた過去の例でいえば、オレンジは清水エスパルスや大宮アルディージャ、イエローはベガルタ仙台やジェフ千葉などのカラーと共通する。だが当時、今回のような勢いで批判を浴びることはなかった。担当者は「サポーターの皆さんとクラブとの間に温度差はあったと思います」と話す。
「想定以上に『赤』に対する嫌悪感をサポーターが持っていました。浦和さんについては当クラブの主力選手を複数獲得してきた歴史もあります。同じく赤をクラブカラーにする名古屋グランパスさんにも、FW佐藤寿人ら主力が何人か移籍しています。そういったクラブに対し『悔しさはないのか』という意見もありました。しかし移籍に関しては、相手クラブからオファーを受け、選手自身が最終的に決断することです。我々としてはそこまでのネガティブな考えはありません。
広島カープさんについては、何も媚を売っているわけではありません。広島県にはサンフレッチェやカープさん、Bリーグの広島ドラゴンフライズさんもあり、スポーツ界全体で広島を盛り上げていこう、協力しようという意識を共有しています。カープさんの赤を使ったことには、そうした仲間意識の意味合いがあるのです。しかし、サポーターの中には必ずしもそうは考えない方もいました。ここにも温度差があったと思います」(同)
「撤回は考えていません」
クラブは明確な信念とコンセプトを持って決定したということだ。とはいえ、サポーターの反発はかなりの熱気を帯びている。その「温度差」は事前に予測できなかったのか。
「心配する声は多少ありました。だから発表も、当クラブ単独でなく、ナイキさんの後に追いかける形にしました。しかし、これほど反対される懸念はありませんでした。
私どもは『スポーツを通して平和を』というメッセージを発信しています。ナイキさんから、五輪という平和の祭典を盛り上げる取り組みを、関係するJの3クラブでやりたいという趣旨を聞き、賛同しました。
『五輪イヤーに日の丸の赤白で』というコンセプトを3チーム合同で実現することで、いわばナイキ連合として五輪を盛り立てていく取り組みです。そこでうちだけ違う色となると、コンセプト自体が曲がってしまう。こうしたさまざまな要素のトータルでナイキさんの提案を受け、赤を使うことにしました。心配はありましたが、趣旨の価値の方が大きいと判断しました」(同)
ファースト(ホーム)より先にセカンドを発表した「少し異例」という順番の問題もある。同時に発表していれば、メインとなるホームユニはどんなデザインだろうかという方に目が行ったかもしれない。そのうえ浦和・鹿島という赤を基調としたクラブと横並びで発表したため「より刺激が強くなったと思う」という。
ではホームユニは、といえば当然「紫」だ。「『紫の誇りを捨てたのか』といったご意見も頂きましたが、捨てていません。ファーストはもちろん紫でいきます」。担当者は即答した。
批判が相次いでいるが「撤回は考えていません。今季はこのアウェーユニフォームでいきます。我々も信念をもって決めています」と見直す予定はない。ただし「頂いたご意見や、サポーターとクラブとの間にギャップがあったことは真摯に受け止めます。次回以降のユニフォームで考えていかなければなりません」と話している。
ナイキジャパンは25日、広島、鹿島、浦和のアウェーユニをほぼ同じデザインにしたことに「手抜き」「怠慢」といった厳しい意見が届いている現状について、「浦和レッズはクラブカラーのスポーツレッド、鹿島アントラーズはクラブカラーのディープレッド、サンフレッチェ広島は広島東洋カープの赤からインスパイアされたサルサレッドと、それぞれ違う赤色、クラブカラーを尊重した形にしております」と取材に答えた。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)