10月31日から約3週間行われた阪神の秋季キャンプ。報道陣のカメラは2人の姿に注がれていた。苦悩する右腕・藤浪晋太郎とこのキャンプで臨時コーチを務めた山本昌氏だ。
阪神の担当記者は「藤浪は山本昌さんに自分から積極的に質問にいっていたようです。本人も何とかしたいという思いは強い。山本さんの助言で復活のきっかけをつかんでほしいですね」と練習の様子を見守っていた。
不調の原因は精神面より「技術」と山本昌氏
本来なら、球界のエースにならなければいけない右腕だ。高卒入団1年目から3年連続2ケタ勝利をマークしたが、16年以降は下降線をたどり、今季は1試合登板のみ。終盤の快進撃でCSに進出したチームの中で、戦力になれなかった。
藤浪の不調と共にクローズアップされたのが、右打者の内角に抜ける「死球病」だった。死球を出してマウンドで顔面蒼白になった姿は一度や二度ではない。イップスを指摘されて精神面の問題を指摘する声もあった。
ただ、現役通算219勝をマークした山本昌氏の見解は違う。不調の原因を「技術面」と分析し、手首を立ててリリースすることなどを助言した。荒れ球の原因である横振りを修正するために、手首を立てれば自然と縦ぶりになり、球の精度が高くなる。過去の指導と重なる部分はあるかもしれないが、山本昌氏の助言は言葉の重みが違うだろう。
150キロを超える直球が武器の本格派右腕である藤浪とは対照的に、山本昌氏はスリークォーターの技巧派左腕だったイメージが強い。抜群の制球力に加え、スライダー、スクリュー、カーブと緩急自在の投球で凡打の山を築いた。
本人は「速球派」を自負
NPB史上最長のプロ29年間投げ続けた左腕。だが軟投派という周囲の見方に対し、「僕は速球派です」と否定。こだわっていたのは直球の質だった。97年には174奪三振でタイトルを獲得している。140キロに満たない球速でもキレがあればバットは空を切る。藤浪は全く違う投球スタイルに感じるが、山本昌氏の指導から得られるものは多いだろう。
今季限りで大黒柱のメッセンジャーが現役引退。エース右腕の穴を埋めるのは容易ではないだけに、藤浪にかかる期待は大きい。もう一度、甲子園のマウンドで躍動する姿が見たい。阪神ファンの願いを叶えることが山本昌氏への恩返しにもなるだろう。