反社会的勢力(反社)について、政府が「定義は困難」とする閣議決定をしたことを受け、反社との「取引を含めた一切の関係遮断」などを求められている企業関係者からの疑問や不安の声が、菅義偉官房長官の会見で紹介された。
反社と判断して取引を停止した相手から「定義を示せ」と言われ、訴訟を起こされかねない――こんな指摘があることについて、菅長官は、2007年に政府が示した指針(後述)は「まったく変わってません」として、「個別の件でお困りであれば、警察、関係省庁にご相談いただければ...」と述べた。
「指針は全く変わってませんから」
2019年12月16日の菅長官会見で、この件で質問したのは北海道新聞の記者。同紙(ウェブ版)は12月14日、「反社排除どうすれば? 『定義困難』と閣議決定 根拠崩れ道内に困惑」の記事を配信している。
道新記者は、「反社会的勢力の定義が困難」と閣議決定したことを受け、道内の自動車販売会社の現場から、次のような不安の声があがっていると指摘した。
「反社と判断して取引停止した場合、相手に『定義を示せ』と言われ、訴訟や慰謝料を求められかねない」
「この会社では2007年の政府指針を根拠にマニュアルを作成しており、『政府が及び腰では困る』とも訴えました」
その上で、「定義困難」とする閣議決定と07年指針との整合性について、現場で混乱があるように見えるとして、菅長官の見解を確認した。菅長官は、
「指針は全く変わってませんから。指針はその通りで、ただその...暴力団はじめとする反社会的な勢力と関係の遮断のために、全力で取り組んでいく中で、の判断でありまして...指針については、全く変わってません」
と述べ、
「個別の件でお困りであればですね、それは警察、関係省庁にご相談いただければ、しっかり対応して...(語尾聞き取れず)」
と続けた。
「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である~」
政府は12月10日、首相主催の「桜を見る会」問題をめぐり、反社の定義について
「その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている」
などとする答弁書を閣議決定していた。
また、07年の指針(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)によると、指針中に「反社会的勢力」の文言が出てくるところで、アスタリスクマークがついており、文書下段に、マークを受ける形で説明書きが続いている。説明では、
「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である『反社会的勢力』をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である」
と記載している。多くのメディア報道では、引用部の最初の部分が「反社の定義」として紹介されている。
今回の菅長官会見の内容が伝えられると、ツイッターには、
「じゃ、警察はどうやって『反社』を定義するんだい??」
といった反応も出ていた。