中国代表の危険なプレーに波紋が広がった。東アジア王者を決めるサッカーのEAFF E-1選手権初戦で、日本代表MF橋岡大樹の頭部に、中国選手の足裏でのキックが当たった。判定はイエローカード(警告)だったが、インターネット上では「一発レッドカード(退場)じゃないのか」と疑問の声が渦巻いた。
なぜ退場処分とならなかったのか。審判資格の取得経験があるサッカージャーナリスト・石井紘人氏はJ-CASTニュースの取材に「私はレッドカードにすべきだったと思う」とするものの、「審判は、中国の選手がボールにプレーする意図があると見えたのだと思う」と見解を示した。
「審判には、キックに行ってもいいくらいの高さに映ったのだと思う」
韓国・釜山で開催したE-1選手権は2019年12月10日、日本-中国戦が行われ、2-1で日本が勝利した。問題のシーンは前半31分にあった。
日本の後方からのロングパスに、右サイドの橋岡が反応。ハイボールを競り合った中国のDF姜至鵬(ジャン・ジーポン)が、ジャンプしながら足裏を前に向けると、橋岡の頭部を直撃した。橋岡はしばらくうつ伏せに倒れ込んだ。主審がすぐに笛を吹いてファウルをとると、提示されたのはジャンへのイエローカードだった。
橋岡は交代で退く後半39分までプレーし、大事には至らなかったようだが、相手のあまりのラフプレーにツイッター上で判定への疑問があがった。
「動画で見ても明らかに故意に足裏で顔面いってるし、当たったあとにつま先をさらに押しつけてる。なぜレッドカードじゃないのか」
「ちょっと待ってこれなんでイエロー??どう考えても1発レッドでしょ...」
「普通にハイキックだったけどね。レッドが妥当」
「これは完璧にレッドカードもんやろ中国のサッカーってカンフーなんですか?」
なぜ一発レッドでなく、イエローで済んだのか。サッカージャーナリストの石井紘人氏は、次のように見解を述べる。
「主審の目には、きっかけとなったロングパスが、キックに行ってもいいくらいの高さに映ったのだと思います。橋岡選手はヘディングの高さだと判断してヘディングに行った。同時に、ジャン選手も自分がプレーに行ける範囲にロングボールが来たと判断し、足でプレーできる高さだと思って競り合いに行った。主審はそう捉え、ボールにプレーする意図がジャン選手にもあると見た。そのうえで、イエローカードの基準である『無謀』な方法でのプレーと判断したと思います」
「無謀」と「過剰な力」
サッカーのルールは国際サッカー評議会(IFAB)が制定しており、日本サッカー協会(JFA)はこれを日本語訳して、解説つきで「サッカー競技規則」として公式サイトで公開している。
そこでは「競技規則は、受け入れられることができない危険なプレーを懲戒罰の用語として整理している。例えば、無謀なチャレンジや相手競技者の安全を脅かすことは警告=イエローカード(YC)であり、過剰な力を用いることは退場=レッドカード(RC)である」などとカード基準も示している。「無謀」と「過剰な力」はさらに次のように説明がある。
「無謀とは、相手競技者が危険にさらされていることを無視して、または、結果的に危険となるプレーを行うことであり、このようにプレーする競技者は、警告されなければならない」
「過剰な力とは、競技者が必要以上の力を用いて相手競技者の安全を危険にさらすことであり、このようにプレーする競技者には退場が命じられなければならない」
退場となる反則には、「著しく不正なプレーを犯す」という基準もあり、下記の説明がある。
「相手競技者の安全を脅かすタックルまたは挑むこと、また過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、著しく不正なプレーを犯したことで罰せられなければならない。いかなる競技者もボールに挑むときに、過剰な力や相手競技者の安全を脅かす方法で、相手競技者に対し片足もしくは両足を使って前、横、あるいは後ろから突進した場合、著しく不正なプレーを犯したことになる」
石井氏はこうしたルールに基づき、「流れの中で、ボールの高さが足でクリアできるくらいだと審判には見えてしまった。かつフィフティ・フィフティくらいのタイミングでボールにプレーしに行ったと見えたから、『結果的に危険となるプレー』と判断し、イエローにしたのでしょう」と推測。報道によると、ジャンも試合後「意図的に相手を傷つけるつもりはなかった」「直接彼を蹴ったのではない」と、あくまでボールを蹴りに行ったと釈明している。
「私はレッドカードにすべきだったと思います」
だが、石井氏自身は「私はレッドカードにすべきだったと思います」という見方だ。
「『過剰な力』によるプレーと見えるからです。あのシーンを冷静に見ると、足でプレーにするには危険な高さのボールでした。それに対し、ボールにプレーしに行った結果だったとしても、足の裏を高く上げてジャンピングキックするのは非常に危険なプレーです。プレーの選択として、相手競技者を危険にさらすようなことはあまりやってはいけません。
すぐそばで見ていた副審がサポートしてもよかったと思います。もしかしたら審判団のコミュニケーションの問題もあったかもしれません。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されていれば間違いなく介入し、レッドの可能性を指摘されたと思います。ウズベキスタンのレフェリーは、アジアの中で結構レベルが高いです。レフェリー自身も再度プレーを見て、レッドだったと思うのではないでしょうか」
また、今回のような危険なプレーが飛び出すのは、国内リーグのレベルとも関係があると指摘する。
「国内リーグとレフェリーのレベルが高ければ、今回のようなプレーには日常的にレッドカードが出る環境づくりができるので、選手も必然的にしなくなります。しかし、ヨーロッパの国々などに比べ、中国のリーグレベルはものすごく高いわけではありません」(石井氏)
E-1選手権は、14日に香港戦、18日に韓国戦と、あと2試合ある。今回のような物議を醸す判定がまた出る可能性はあるか。石井氏はこう述べていた。
「おそらくないと思います。一定の実力があるレフェリーが担当しています。中国戦も、あの飛び蹴り以外で重大な見落としがあったわけではありません。また審判委員会も、あの判定はレッドではなかったかと、審判団に指導すると思います」
(J-CASTニュース編集部 青木正典)